平成30年度改正 所得拡大促進税制について
概要
平成30年4月1日以降に開始される事業年度から改正の適用です。従来の制度が大きく変更されます。「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」に改められていることから、本税制は単なる「賃上げ促進」のみではなく、一定の投資促進も政策目標に含めた税制に改組されたと言われています。とりわけ今回は、上乗せ措置以外、また中小企業を対象とした制度を中心に概括したいと思います。
改正後の制度内容
【要件】
①給与総額が前年度以上
②継続雇用者給与等支給額が前年度比で1.5%以上増加
※継続雇用者給与等支給額の増減の算定について
継続雇用者とは、適用年度及びその前事業年度の期間内の各月において当該法人の給与等の支給を受けた国内雇用者のうち、雇用保険の一般被保険者に該当し継続雇用制度適用対象者を除いた者をいう(措法42の12の5③六、措令27の12の5 ⑭)。
これらの定義からも明らかなとおり、継続雇用者の範囲は、国内雇用者(国内雇用者の定義については下記に記載)の範囲を絞り込むことによって得られるという関係にあります。また、従前からの規定内容が変更になったことによって、期の中途で入社・退職した者は継続雇用者に該当しないこととなり、実際の集計作業から除外することができるようになりました。
【税額控除】
- 前年度からの給与総額の増加額に対して、15%の税額控除
- 人材投資や生産性向上に取り組む企業は税額控除率を25%に上乗せ
また、給与等に充てるため他の者(当該法人との間に連結完全支配関係がある他の連結法人を含みます)から支払を受ける金額がある場合には、その金額を控除する必要があります。
- アルバイト、パート、日雇労働者 すべて含む。
- 労働基準法108条規定された賃金台帳に記載された者。
- 役員、使用人兼務役員及び役員の親族等除く。
- 海外事務所勤務者除く。
- 出向及び他の者から支払いを受ける金額控除する必要がある。
- 退職金や所得税非課税とされる通勤手当は除く。
- 給与所得とされるものはすべて含まれる。
○ 税額控除額の算定は、雇用者給与等支給額の増加額。
○ 要件は、継続雇用者給与等支給額の増加率。
従来からの変更(主なもの)
- 基準年度からの増加要件の撤廃(基準年度が既に5年以上前のものであり直近の賃上げの実態と乖離しているのが撤廃の趣旨)
- 税額控除率の拡充
- 人材投資や生産性向上に取り組む企業は更に支援
- 平均給与概念の廃止
- 上表のように大企業・中小企業で異なる要件を設定
私見
従前に実務的負担が大きかったのは,改正前の適用要件にあった平均給与の算定に係る業務です。継続雇用者について平均給与を算定して前期と当期を比較し要件を充足するか否かについて判断・決定をしていました。その際の支給人数の抽出に多大な時間を要す必要がありました。特に、税額へのインパクトが大きくなりがちな、従業員数の多い企業ほどその作業に手間が生じていました。当然に会社の利用する人事・給与・会計システムは、当該制度を前提とした給与・人事システムでないため、入退社や産休・育休また個人ごとの特殊事情などを抽出する際にマンパワーに頼らざるを得ない部分がありました。涙を潤ませながらの作業でした。
今回の改正によって、上記の負担は低減すると思われますが、依然個人毎に継続雇用者の内容を把握する必要があるという意味では極端なほどには事務負担の減少は無いと思います。その一方で、決算前に制度利用のための集計作業を事前に行いやすくなった点は事務負担を平準化させると考えます。
また、基準年度の概念についての変更があり、継続的に所得拡大政策がある法人で制度導入当初からこの制度を利用していた場合などは税効果が低下する場合もあると思われます。