目次
注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき判断しておりますが、一若輩者の執筆であることから個別の案件での具体的な処理については責任を負いかねます旨ご理解いただきたく存じます。制度上の取扱いに言及しておりますが、個人的な見解であり、より制度深化に資すればと考えてのものです。
Ⅰ.はじめに
税務実務では、ひとつの資産や費用を複数の用途で共用する場面が少なくありません。
このとき、面積按分(使用面積比による区分)は、課税・非課税や事業・非事業などを分ける合理的な基準として広く用いられます。
これらの取扱いは、個別に定められており、画一的にどの論点においても按分してよいという理解でいると処理を誤る恐れがあると思われます。
本稿では、特に次の3局面での面積按分を整理します。
共通仕入税額控除の計算(消費税法30条・消基通11-2-19)
耐用年数設定時の用途判定(耐通1-2-4)
居住用賃貸建物判定(消基通11-7-3)
Ⅱ.共通仕入れに係る課税仕入割合の按分
(消費税法30条・消基通11-2-19)
背景
課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(共通対応分)として区分された課税仕入れ等であっても、
合理的な基準によって、課税対応仕入と非課税対応仕入に区分できる場合があります。
例えば、①製品製造原価となる原材料、梱包材料、倉庫料、電力料等のように、「課税資産の譲渡等」または「非課税資産の譲渡等」との対応関係が明確かつ直接的で、②生産実績のように既に実現している事象の数値のみによって算定される割合で、③その合理性が検証可能な基準により機械的に区分することが可能なものに限って、その合理的な基準により課税資産の譲渡等にのみ要するものとその他の資産の譲渡等にのみ要するものとに区分することができるものについては、その区分によってよいとされています。
根拠
消費税法30条2項
消費税基本通達11-2-19:「面積・従業員数・使用時間などの合理的基準によること」
面積按分の実務例
課税売上と非課税売上の両方に共通して使用される資産(建物、光熱費、通信費など)の仕入税額控除割合を算出する際、面積按分が合理的と認められるケースがあります。
(例)
店舗兼住宅:1階店舗(課税)・2階住宅(非課税)を面積比で按分
医療機関:診療室(非課税)・薬局(課税)を面積比で区分
参考記事
Ⅲ. 居住用賃貸建物判定のフェーズ
(消費税法30条10項・消基通11-7-3)
背景
事業者が、国内において行う居住用賃貸建物(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物であって高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に該当するもの)に係る課税仕入れ等の税額については、仕入税額控除の対象としないこととされています。
根拠
消費税法30条10項
消費税法施行令第50条の2第1項⦅仕入れに係る消費税額の控除の対象外となる居住用賃貸建物の範囲⦆
消費税基本通達11–7-3:合理的区分の方法
住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分がある居住用賃貸建物については、事業者が、その居住用賃貸建物をその構造及び設備の状況その他の状況によって、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分とそれ以外の部分(居住用賃貸部分)とに合理的に区分しているときは,その居住用賃貸部分のみが仕入税額控除の対象とならず、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分については仕入税額控除の対象となるとされています(消令50条の2第1項)。
この場合において、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分がある居住用賃貸建物」とは、例えば、建物の一部が店舗用の構造等となっている居住用賃貸建物をいいます。
一棟または1フロア内に居住用と店舗用が併設されている場合、使用面積割合や使用面積に対する建設原価の割合など、その建物の実態に応じた合理的な基準を用いて区分している際には「合理的に区分している」と考えられます。
参考記事
Ⅳ.耐用年数設定時の用途区分のフェーズ
(耐通1-2-4)
背景
一つの建物が複数の用途(例:住宅部分+事務所部分)で使用される場合、どの耐用年数区分(例:住宅用・事務所用・店舗用)に属するかを判定する必要があります。
一の建物については,一の耐用年数を適用するというのが原則です。したがつて,一の建物について,各階ごとにその用途が異なっている場合には,「主として」いずれの用途に使用されているかどうかを判定し、その主たる用途の耐用年数を適用します。
しかしながら、一の建物の一部について、その構造等が著しく異なる内部造作が施設されているような場合には、その使用の実態に着目し、それぞれを区分して、それぞれの用途に応ずる耐用年数を適用することができることとされています。
根拠
耐用年数通達:11-2-4(2以上の用途に使用される建物に適用する耐用年数の特例)
面積按分の実務例
例えば,鉄筋コンクリート造りの6階建のビルディングのうち1階から5階までを事務所に使用し,6階を劇場に使用するため,6階について特別な内部造作をしている場合→1-5Fと6Fに按分したうえで、それぞれに耐用年数設定
その他、ボーリング場と店舗、公衆浴場と店舗、停車場と店舗等
Ⅴ.まとめ・私見
3論点の相関まとめ(比較表)
区分 | 面積按分の位置づけ | 法令・通達 | 判定対象 | 結果・影響 |
共通仕入税額控除 | 課税対応・非課税対応の合理的按分基準 | 消基通11-2-19 | 共通費・建物経費 | 仕入税額控除に影響 |
耐用年数設定 | 用途区分判定基準 | 耐通1-2-4 | 減価償却資産 | 耐用年数区分決定 |
居住用賃貸判定 | 居住用賃貸建物部分の合理的按分基準 | 消基通11-7-3 | 賃貸建物 | 仕入税額控除に影響 |
処理決定のため、合理的な按分基準として採用すればすべてが認められるわけではないという気が致します。
上述のように例えば、耐用年数についての判断の局面では、一つの建物には一つの耐用年数というのが原則になっています。その例外として、同一建物内の構造が著しく異なるなどの前提がある場合に合理的な方法で区分できるとの規定になっています。
耐用年数を設定するフェーズや消費税区分を決定するフェーズで、合理的な方法で按分できる場合の前提の要件が異なっています。
換言すれば、一つの賃貸建物を取得した場合に、各フェーズで面積按分できる論点とできない論点が生じうると思われます。
具体的には、同一建物内に、(教科用図書の譲渡を行う)教科書販売所と一般書籍販売所を併設している建物を取得した場合は、耐用年数については一様に構造が同じため一棟丸ごと「店舗用」と判断されます。これに対して、消費税区分を判断する際には、教科書販売所と一般書籍販売所の面積割合に応じて、教科書販売所部分は非課税対応課税仕入、一般書籍販売部分は課税対応課税仕入と区分すると思われます。
このように捉えていくと体系的な理解としては複雑となりますが、どの論点に関する処理において何を区分しようとしてしているのかについて、各個丁寧に検討する姿勢が求められると思います。