中小企業が作成する決算関係書類における製造原価報告書の添付に関する規定について

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目次

注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき判断しておりますが、一若輩者の執筆であることから個別の案件での具体的な処理については責任を負いかねます旨ご理解いただきたく存じます。制度上の取扱いに言及しておりますが、個人的な見解であり、より制度深化に資すればと考えてのものです。

1.製造原価報告書とは

製造業等の会社が、その事業年度に販売した製品の製造原価を明らかにするために作成する書類です。 製造業特有の決算書で、「製造原価明細書(表)」や「コスト・レポート(C/R)」とも呼ばれます。

 

2.公開会社における開示規定の経緯

①前提

歴史的に平成26年以前は、製造原価明細表として、

少なくとも公開会社においては損益計算書の添付書類という立ち位置でした。

その根拠は、財務諸表規則75条2項「前項第2号の当期製品製造原価については、

その内訳を記載した明細書を損益計算書に添付しなければならない」という条項に立脚したものであったと思われます。

②平成26年改正

 しかしながら、平成26年3月26日に内閣府令第19号「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」等(以下、「本改正」という。)が公布され、

製造原価明細表(新財務諸表等規則第75条第2項)の規定に「ただし、連結財務諸表において、連結財務諸表規則第15条の2第1項に規定するセグメント情報を注記している場合は、この限りでない。」という文言が追加されました。

 これによって製造原価明細表は,売上原価のうち当期製品製造原価について,

材料費,労務費,間接費(又は経費)などの内訳を記載の上,

金商法における単体固有の開示項目として損益計算書に添付するものとなり,

改正において同明細表の添付を原則的に免除することとされました。

なお, 連結財務諸表規則第15条の2 第1項に規定するセグメント情報を開示していない会社については製造原価明細表の開示は免除されず,改正以降も損益計算書への添付が必要です。

同明細表に関する改正への反対意見としては会社の製造原価の内容を把握し,

損益分岐点分析等のために一定の有用性があるという見解がある一方で,

賛成意見として現在の連結開示が中心となっている状況において提出会社単体の製造原価に関する情報の有用性は低下しているという見解がありました。

これらの見解を踏まえた上で検討が行われた結果,

その改正の趣旨として連結財務内容のうち提出会社単体の占める比率が高いなど,

損益の連単倍率が低い場合であっても,原価構成の異なる複数の事業を行っていることが多いと考えられる点,

又はこうした複数の事業に関する製造原価の発生状況を単一の表にまとめた現行の明細表は,相対的に有用性が低下していると考えられる点

が重視され、原則として,同明細表の開示が免除されています。

(参考)『「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内 閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方』🔗

3.中小企業について

①命題

さて、ここで、中小企業などのような金融商品取引法の適用を受けない会社における、製造原価報告書の添付の有無が問題となります。

②検討・結論

会社計算規則に直接・具体的な取り扱いが規定されていないことから、必須の条件として添付しなければならないものではなさそうとも判断できます。

金商法の適用を受けない場合、会社法では、

「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。」(第431条)と規定されています。また、会社計算規則においては、「(略)用語の解釈及び規定の適用に関しては、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行をしん酌しなければならない。」(第3条)

という規定があります。

さらに、財規でもただし書きの適用を受けない(セグメント持っていない)会社などは、75条本文の適用を受けるところに鑑みると、添付を行うことが原則的(マストではない)であると考えます。

そもそも、経営上・内部管理上は製造原価の把握は当然の行いであると考えられるため、

あとはそれを添付するかどうかの判断です。

そのほか、財規や計算規則以外にも、

中小企業を取り巻く会計・財務の慣行・ルールのなかに以下の様な取り決めが認められる点も参考になると思われます。「中小企業の会計に関する基本要領」 平成24年2月1日には、「製造原価明細書」の様式が例示されており、建設業許可様式第16号〔完成工事原価報告書〕にも原価報告の様式が準備されている点などです。

 

③その他・私見

ここで私見ですが、上記財規の改正趣旨が多角化展開をしている大企業において、

その一つの業種の製造原価の有用性が低下している点を主張している事は理解できるところですが、

固定費の内訳など投資家においては必須であると思われる部分まで開示が省略されてしまう点懸念するところです。

日本証券アナリスト協会企業研究会が同上の改正案について意見した内容🔗について、

セグメント情報が原価報告書の情報を補完しないという点、私も同意見です。

また、例えば邪な意図をもって販管費に計上したくない科目を敢えて原価へ計上してしまうといった行為が可能となってしまうのではないかとも思います。

実務上、原価か否かの判断は迷う場合が少なくなく、

本質的に割り切れない側面があるところ、多額の交際費を隠す意図を以って、原価項目に算入されていた場合などは投資家からは、

多様な勘定科目の集計である「製造原価」の総額しか見えないということになってしまいます。

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