定額減税と現金給付・住民税の概要と調整給付・所得制限がもたらす影響について

目次

注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき判断しておりますが、一若輩者の執筆であることから個別の案件での具体的な処理については責任を負いかねます旨ご理解いただきたく存じます。制度上の取扱いに言及しておりますが、個人的な見解であり、より制度深化に資すればと考えてのものです。

1.定額減税と現金給付の制度概要

物価高から暮らしを守るとともに、デフレ完全脱却に向けた一時的な措置として、2024年6月以降1人当たり計4万円が定額減税されるとのことです。また、住民税非課税などの低所得世帯や、減税の恩恵を十分受けられない人には給付金による支援が行われます。
定額減税と現金給付は、もとは同一の構想に基づいて発案されたものと推察しますが、その手法や立脚する法規は所得の程度によってそれぞれ異なっているように見受けます。

その制度設計や実施手法について所得税・住民税・給付金と横断的となっており、複雑になってるため、種々の意見が散見されます。

2.定額減税と現金給付のイメージ図

令和6年3月現在時点での制度概観

対象世帯 住民税非課税世帯所得税非課税
住民税課税世帯
所得税・住民税課税世帯だが、
減税しきれない世帯
所得税住民税4万円以上納税世帯
現金給付
自治体により順次開始
既給付3万円 控除しきれない減税額との差額を1万円単位で給付 
追加給付7万円10万円
18歳以下子ども一人当たり
5万円を上乗せ給付
減税
2024年6月支給分より開始
  所得税本人3万+扶養親族1人あたり3万。
住民税本人1万+扶養親族1人あたり1万。
所得税本人3万+扶養親族1人あたり3万。
住民税本人1万+扶養親族1人あたり1万。
収入額面の目安 ~255万程度~270万程度~535万程度~2000万程度

※ 所得税は令和6年分個人住民税は令和5年分の合計所得金額をもとに定額減税対象を判定

3.定額減税(所得税)

(1)適用対象者について

令和6年6月から実施される定額減税の適用を受けることができる人は、以下の要件を満たす人です。

  1. 令和6年分の所得税の納税者であること
  2. 日本国内に住所を有する個人または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人(以下「居住者」といいます)
  3. 令和6年分の所得税に係る合計所得金額が1,805万円以下である個人

給与収入のみの方は、給与が2,000万円以下(注)の場合に対象となります。
上記、1805万円の合計所得制限は、給与額面2000万-給与所得控除195万の方を想定し設定された基準のように思います。

(注)子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用を受ける方は、2,015万円以下となります。

 

なお、合計所得金額が 1,805 万円を超えることが見込まれる人であっても、基準日在職者に該当 する場合には、月次減税の対象となるようです(🔗国税庁『令和6年分所得税の定額減税Q&A』令和6年2月5日,Q2-2

(2)事務処理の実施方法について

令和6年分所得税の定額減税については、「令和6年度税制改正の大綱」(令和5年12月22日閣議決定)において税制改正の内容が決定されたところです。とくに、給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた(PDF/6,851KB)令和6年分所得税の定額減税Q&A(PDF/621KB)に説明があります。

定額減税額(特別控除の額)は、次の金額の合計額です。
ただし、その合計額がその人の所得税額を超える場合には、その所得税額が限度となります。

  1. 本人(居住者に限ります。) 30,000円
  2. 同一生計配偶者または扶養親族 (いずれも居住者に限ります。) 1人につき30,000円

定額減税の実施方法

特別控除は、所得の種類によって、次の方法により実施されます。

  1. 給与所得者に係る特別控除
     令和6年6月1日以後最初に支払われる給与等(賞与を含むものとし、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している勤務先から支払われる給与等に限ります。)につき源泉徴収をされるべき所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」といいます。)の額から特別控除の額に相当する金額が控除されます。
    これにより控除をしてもなお控除しきれない部分の金額は、以後、令和6年中に支払われる給与等につき源泉徴収されるべき所得税等の額から順次控除されます。
    上記のことを「月次減税事務」と呼ぶようです。 なお、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に記載した事項の異動等により、特別控除の額が異動する場合は、年末調整により調整することとなります。
    最終的に「年調減税事務」において、年末調整時点の定額減税との差額を清算します。
  1. 給与所得者に係る特別控除(上記)
  2. 公的年金等の受給者に係る特別控除
     令和6年6月1日以後最初に厚生労働大臣等から支払われる公的年金等(確定給付企業年金法の規定に基づいて支給を受ける年金等を除きます。)につき源泉徴収をされるべき所得税等の額から特別控除の額に相当する金額が控除されます。これにより控除をしてもなお控除しきれない部分の金額は、以後、令和6年中に支払われる公的年金等につき源泉徴収されるべき所得税等の額から順次控除されます。
     なお、「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」に記載した事項の異動等により、特別控除の額が異動する場合は、令和6年分の所得税の確定申告(令和7年1月以降)により調整することとなります。
  3. 事業所得者等に係る特別控除
     原則として、令和6年分の所得税の確定申告(令和7年1月以降)の際に所得税の額から特別控除の額が控除されます。
     予定納税の対象となる方については、令和6年7月の第1期分予定納税額から本人分に係る特別控除の額に相当する金額が控除されます。
     なお、同一生計配偶者または扶養親族に係る特別控除の額に相当する金額については、予定納税額の減額申請の手続により特別控除の額を控除することができ、第1期分予定納税額から控除しきれなかった場合には、控除しきれない部分の金額が11月の第2期分予定納税額から控除されます。

4.定額減税(住民税)

【参考サイト:柏原市HP R6.3.14訪問。】

納税者本人の特別控除の額は、次の金額の合計額です。ただし、その合計額が個人住民税の所得割を超える場合は、所得割の額を限度とします。 

  1. 納税者本人・・・1万円
  2. 控除対象配偶者または扶養親族(国外居住者を除く)・・・1人につき1万円
    (注)納税者本人の合計所得金額が1,805万円以下の場合に限ります。
留意点として、『税務通信』3793号  2024年03月11日に以下の様な内容が掲載されておりました。定額減税の個人住民税分は、所得税と異なり、令和5年分の所得をベースに判定されることになります。特に、所得制限を超える方が、年少扶養親族を有していた場合、所得の少ない配偶者へ扶養を異動する必要の検討が求められるようです。
 

特別控除の実施方法
(1) 給与所得にかかる特別徴収(給与天引き)の場合
 令和6年6月分の給与天引きを行わず、特別控除後の税額を11分割し、令和6年7月分~令和7年5月分で給与天引きを行います。
 (注)特別控除後に所得割額が0円(均等割額5,300円のみ)となった場合は、令和6年7月分の給与天引きにて一括徴収を行います。

(2) 公的年金等の雑所得にかかる特別徴収(年金天引き)の場合
 (年金天引き開始(初年度)の方)
 令和6年度から年金天引きが開始される方は、第1期分(令和6年6月)から特別控除を行い、控除しきれない場合は8月分から順次控除を行います。

 (年金天引き2年目以降の方)
 令和6年10月支払分の年金より年金天引きされる税額から、特別控除を行い、控除しきれない部分の金額については12月支払分以降の税額から順次控除を行います。

  (3) 普通徴収(納付書や口座振替等)の場合
    第1期分の税額から特別控除を行い、控除しきれない部分の金額については第2期以降の税額から順次控除を行います。

(注)合計所得金額1,805万円超の者や均等割額のみ課税者など、定額減税が適用されない者にあっては、上記(1)~(3)のいずれであっても、通常通りの徴収方法となります。
注意事項
納税者本人が均等割のみ課税の場合は、定額減税の対象となりません。
定額減税の特別控除は、他の税額控除の額を控除した後の所得割額に適用します。
ふるさと納税の特例控除額の控除上限額を計算する際に用いる所得割額は、定額減税の特別控除が適用される前(調整控除後)の額となります。
定額減税可能額が所得割額を上回る方には、調整給付金の支給が予定されています。

 

5.調整給付について

調整給付については、記事執筆時点で不明瞭な論点も多いですが、🔗『低所得者⽀援及び定額減税補⾜給付⾦(うち調整給付)概要資料(2/21時点版)令和6年2⽉21⽇』内閣官房令和5年経済対策給付⾦等事業企画室内閣府地⽅創⽣推進室【未定稿】(以下、引用資料と呼称)に参考となる内容が記載されています。

以下は暫定的な取り扱いです。上記資料より引用します。下線・太字は筆者の加工です。

(1)調整給付の実施主体

〇 調整給付の実施主体は、定額減税措置との連続性を踏まえ、令和6年度個人住民税課税団体とする。
(住民登録外課税の場合も、同様)

(2) 調整給付に係る事務処理の流れ

・事務処理基準日 : 令和6年6月3日を目安として設定 ➡ 令和6年夏以降支給開始
住民から自治体への申請期限 : 遅くとも令和6年10月31日まで
※下記の支出決定期限までに支出決定可能であれば、地方公共団体の判断
で後ろ倒しすることも可能
・自治体における支出決定の期限 : 遅くとも令和6年11月30日まで
※上記の期限までとすることが困難な場合、地方公共団体の判断で令和6年
12月20日まで後ろ倒しすることも可能
・支援者数の調査時期 : 遅くとも令和6年12月~令和7年1月頃

(3)調整給付額の計算

引用資料P5より抜粋↓

(私見)調整給付は、厳密には税金の還付という建付でなく、給付金という形での整理でしょうか。また、所得税については令和6年分の推計値となっているところがポイントのように思います。

(4)「当初調整給付額」と「不足額給付額」について(イメージ)

引用資料P14より抜粋↓

(私見)上記(3)でみたように、所得税については令和6年分の推計値であるため、令和6年分の所得税が確定した後に、令和7年において差額を清算するようです。なお、確定した不足額が推計した不足額を下回る場合には追加で徴収されるということはないみたいです。

6.私見(所得制限規定の問題点について)

物価高騰に対応するため減税の効果をタイムリーに引き出す意味で、源泉から控除する手法を制度として採用したと考えられますが、民間の担当者における制度把握や、給与計算ソフトの改修などの事務負担のコストは増大すると容易に想像できます。上記にあるように、所得税・住民税でその対象とする所得年度が異なることについてそもそも所得税・住民税の所得計算と納付時期の構造を把握していないと理解が難しいのではと思います。

近年、当該定額減税制度に関わらず、国・地方が行う支援措置には「所得制限」規程が存在しているものが多いと感じます。

一定の個人の立場に立った場合に、国税・地方税・社会保険料・公的支援など総合的な影響から、その手取り額が稼ぐほどに損をするという逆転現象を強めているように思えてなりません。
私学無償化や子供手当・住宅ローン・各種支援金など所得制限を課す意味について、個人を取り巻く包括的な視点から再考されるべきです。
少子高齢化に対応し、強い国を作るためには、子育て世代及びそれをけん引する若い高所得者層の勤労意欲インセンティブを阻害してはならないのではないでしょうか。

元来、所得税には累進課税という基本理念に基づいて所得に応じた税率が設定されているところ、それと離れた制度においては極力所得制限を排除するよう設定しなければ、
所得税法の基本理念さえ歪めてしまうことになりかねないと考えます。

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