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注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき判断しておりますが、一若輩者の執筆であることから個別の案件での具体的な処理については責任を負いかねます旨ご理解いただきたく存じます。制度上の取扱いに言及しておりますが、個人的な見解であり、より制度深化に資すればと考えてのものです。
1.前提
個人株主を頂点とする兄弟会社間でのグループ法人税制では、その領域によって適用になる項目とならない項目があり注意が必要と思われたので下記のように整理してみたいと思います。
特に、実務上よくある事例としての「譲渡損益の繰延」のケースと「寄附金が損金不算入」となるケースは取扱いが異なります。
2.100%グループ内の法人間の資産の譲渡取引等
100%グループ内の法人間の資産の譲渡取引等(譲渡損益の繰延べ・法 61 の 11)については、以下の様な取り扱いとなっています。
譲渡法人がその有する譲渡損益調整資産を譲受法人に譲渡した場合には、その譲渡損益調整資産に係る譲渡利 益額又は譲渡損失額に相当する金額は、その譲渡法人の当該事業年度において損金の額又は益金の額に算入し、その譲渡損益調整資産に係る譲渡利益額又は譲渡損失額を実質的に所得の金額に反映させないこととされています。
制度の対象となる譲渡損益調整資産は、固定資産、土地(土地の上に存する権利を含み,固定資産に該当するものを除く。)、有価証券、金銭債権及び繰延資産とされています(法61条の11第1項)。
したがつて、棚卸資産は譲渡損益調整資産に該当しませんが、棚卸資産である土地等の譲渡は譲渡損益の調整対象となります。
また、次の資産は対象外とされています(令122条の12第1項)。
① 売買目的有価証券
② 譲受法人において売買目的有価証券とされる有価証券
③ 譲渡直前の帳簿価額が1,000万円に満たない資産
上記図のケース2が個人株主を頂点とするケースです。
兄弟会社間での取引にグループ法人税制の制度適用があります。
3.100%グループ内の法人間の寄附金の損金不算入、受贈益の益金不算入(法 37②、法 25 の2)
内国法人が各事業年度においてその内国法人との間に完全支配関係がある他の内国法人に対して支出した寄附金の額は、その支出した内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないこととされています(法37条2項)。
逆に、内国法人が各事業年度においてその内国法人との間に完全支配関係がある他の内国法人から受けた受贈益の額は、その受贈益の額を受けた内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しないこととされています(法25条の2)。
すなわち、100%グループ内で行われた寄附については、支出側で損金不算入となり、受贈側で益金不算入となるため、グループ全体としてみた場合に寄附による課税所得が発生しないというものです。
完全支配関係については、法人による完全支配関係に限られ、個人による完全支配関係が除かれている点が先述の資産の譲渡取引と取扱いが異なっています。
「個人による完全支配関係」とは、一の個人及びその同族関係者が二の法人の発行済株式の100%を直接又は間接に保有する場合のその二の法人の間の関係を指します。
これが除外されているのは、例えば親が発行済株式の100%を保有する法人から子が発行済株式の100%を保有する法人への寄附について損金不算入かつ益金不算入とすると、親から子へ経済的価値の移転が無税で行われることとなり、相続税・贈与税の回避に利用されるおそれが強いことによるためです。(令和5年度版 コンメンタール法人税法 3巻2600頁 注 釈/Ⅱ 法第37条第2項(単体申告の場合のグループ内の法人間の寄附金))
上記図のケース2が個人株主を頂点とするケースです。
兄弟会社間での取引にグループ法人税制の制度適用がありません。