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注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき判断しておりますが、一若輩者の執筆であることから個別の案件での具体的な処理については責任を負いかねます旨ご理解いただきたく存じます。制度上の取扱いに言及しておりますが、個人的な見解であり、より制度深化に資すればと考えてのものです。
1.無対価合併の適格要件
無対価合併が適格合併になるのは、次に掲げる場合です。
まず、合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を所有しているときは、無対価合併は適格合併になります(法令4条の3第2項1号)。親会社による100%子会社の吸収合併が該当しますが、直接保有で発行済株式総数の全部を所有している場合に限定されている点に留意が必要です。
次に、法人相互の完全支配関係がある法人間の合併に係る適格要件は、以下のとおりです。
合併前に当該合併に係る被合併法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係(法人相互の完全支配関係)があり、
かつ、合併後に当該同一の者と当該合併に係る合併法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれているときは、適格合併になります。
ただし、無対価合併である場合は、合併前の完全支配関係が、次のいずれかの関係である場合に限り、適格合併になります(法令4条の3第2項2号)。この点が、平成30年度税制改正により、次のように定められました。
イ 合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係
ロ 被合併法人および合併法人の株主等(当該被合併法人および合併法人を除く)のすべてについて、
その者が保有する被合併法人の株式等の被合併法人の発行済株式等に占める割合と当該者が
保有する合併法人の株式等の合併法人の発行済株式等に占める割合とが等しい場合におけるその被合併法人と合併法人との間の関係
組織再編参考記事
2.平成30年度税制改正の趣旨
平成30年度改正の趣旨は、以下のようです。
平成22年度税制改正によって、無対価合併に係る税制適格要件が明確化されましたが、株主が複数存在することにより無対価合併に係る税制適格要件を満たすことができず、想定外の規定に適合し、課税を受けるケースが散見されました。
とりわけ被合併法人が債務超過会社である場合には、被合併法人株式の時価がゼロであるため、合併比率の算定が困難であること、
及び被合併法人の株主に対し、合併法人株式を交付することによる株主間贈与のリスクがあることから、これらのリスクを回避するため、株主が複数存在する場合であっても、無対価合併を選択してしまうケースがありました。
このような問題を解消するため平成3 0年度税制改正により、株主が複数存在するケースであっても資本関係に変化が生じない場合には適格要件を満たすこととされました。
合併の適格要件の一つである完全支配関係の規定における「一の者」(=株主等)には、その株主等が個人の場合はその株主等の親族や事実上婚姻関係と同様の事情にある者等の特殊の関係のある個人も含む(法令4の2②、法令4①)と広く規定されていますが、
無対価合併の規定には、「特殊の関係のある個人を含む」という規定は定められていません。
改正後においても「その者」についてはカッコ書きが付されていない点を鑑みると、同一の持分比率同士の合併の場合以外においては依然として同族で保有する支配関係は除かれていると思われます。 除かれているのは株主構成や持ち分割合が変わると株主間で株式価値の移転が生じてしまうためであると思われます。
法令4の3②二 ロに規定する状況のイメージ図
3.参考条文
法法2十二の七の六
十二の七の六 完全支配関係 一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(以下この号において「当事者間の完全支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係をいう。
法令4の2②
2 法第2条第12号の7の6に規定する政令で定める関係は、一の者(その者が個人である場合には、その者及びこれと前条第1項に規定する特殊の関係のある個人)が法人の発行済株式等(発行済株式(自己が有する自己の株式を除く。)の
総数のうちに次に掲げる株式の数を合計した数の占める割合が100分の5に満たない場合の当該株式を除く。以下この項において同じ。)の全部を保有する場合における当該一の者と当該法人との間の関係(以下この項において「直接完全支配関係」という。)とする。
この場合において、当該一の者及びこれとの間に直接完全支配関係がある1若しくは2以上の法人又は当該一の者との間に直接完全支配関係がある1若しくは2以上の法人が他の法人の発行済株式等の全部を保有するときは、
当該一の者は当該他の法人の発行済株式等の全部を保有するものとみなす。
法令4の3②二
二 合併前に当該合併に係る被合併法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係(当該合併が無対価合併である場合にあつては、次に掲げる関係がある場合における当該完全支配関係に限る。)があり、
かつ、当該合併後に当該同一の者と当該合併に係る合併法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続すること(当該合併後に当該合併に係る合併法人を被合併法人又は完全子法人(法第2条第12号の15の2に規定する完全子法人をいう。以下この条において同じ。)
とする適格合併又は適格株式分配を行うことが見込まれている場合には、当該合併の時から当該適格合併又は適格株式分配の直前の時まで当該完全支配関係が継続すること。)が見込まれている場合における当該合併に係る被合併法人と合併法人との間の関係
イ 合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係
ロ 被合併法人及び合併法人の株主等(当該被合併法人及び合併法人を除く。)の全てについて、その者が保有する当該被合併法人の株式(出資を含む。以下この条において同じ。)の数(出資にあつては、金額。以下この条において同じ。)
の当該被合併法人の発行済株式等(当該合併法人が保有する当該被合併法人の株式を除く。)の総数(出資にあつては、総額。以下この条において同じ。)のうちに占める割合と当該者が保有する当該合併法人の株式の数の当該合併法人の発行済株式等
(当該被合併法人が保有する当該合併法人の株式を除く。)の総数のうちに占める割合とが等しい場合における当該被合併法人と合併法人との間の関係