目次
- 1.前提
- 2.換地処分とは
- 3.換地処分で清算金が徴収・交付される場合
- 3(1)換地処分で清算金が交付される場合の条件
- 3(2)清算金とは
- 4.問題意識【税務上の譲渡なのか・評価差額なのか】
- 4(1)①個人の税務の取り扱い 所得税法の特例として
- 4(1)②個人の税務の取り扱い 土地区画整理法の考え方
- 4(2)①法人の税務の取り扱い 法人税の特例としての措置法
- 4(2)②法人の税務の取り扱い 法人税の特例としての措置法通達
- 4(2)③法人の取り扱い小括・税務上の課題
- 5.問題意識Ⅱ 消費税法の取扱い
- 6.【図解まとめ】土地区画整理法・個人所得税法(措置法33条)・法人税法(措置法65条)・消費税法の考え方整理
注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき判断しておりますが、一若輩者の執筆であることから個別の案件での具体的な処理については責任を負いかねます旨ご理解いただきたく存じます。制度上の取扱いに言及しておりますが、個人的な見解であり、より制度深化に資すればと考えてのものです。
1.前提
土地の収用については、頻繁に出くわす取引ではありませんが、ここ数年で複数件の発生を経験し、
制度上どのようになっているかを調べたのでここに整理してみようと思います。
2.換地処分とは
換地処分等とは、収用、買取、換地処分、権利変換又は交換をいい、交換取得資産とは、これらの換地処分等により強制的に交換が行われたことにより取得した資産をいいます。
3.換地処分で清算金が徴収・交付される場合
(1)考察の前提条件
区画整理において換地処分が行われており、清算金を受領したことで圧縮記帳を適用する場合について考察してみました。
(2)清算金とは
まず、清算金は、土地区画整理事業の換地により「従前の土地」と「換地」との間 に評価上の不均衡が生じることがありますが、この不均衡を解消するために やりとり(「徴収」や「交付」)される金銭のことを清算金といいます。
より具体的には、換地計画における、従前の宅地またはその部分に対して換地計算上当然に交付すべき換地の評定価額(権利価額または換地権利価額という)と、
換地計画の換地の評定価額とに差がある場合、従前の宅地またはその部分と換地について、その 位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等を総合的に考慮して
金銭を徴収・交付して清算するものとし、換地計画においてその額を定めるものとされています(土地区画整理法94条)。
会計的には、下図水色部分と緑色部分の評価差額的な理解でしょうか。
4.問題意識【税務上の譲渡なのか・評価差額なのか】
地番の変更なく、見た目上土地の所在に変化がない場合でも区画整理に伴う土地面積の減少とともに換地と扱われ清算金が交付される例があります。
地権者においては、土地区画整理事業後の宅地の面積は従前に比べ小さくなるものの、都市計画道路や公園等の公共施設が整備され、土地の区画が整うことにより、利用価値の高い宅地が得られるという性質です(参考:国土交通省HP「土地区画整理事業」R5.10.26訪問🔗)。
この場合に、土地の所有権に変化がないにも関わらず、会計上土地の譲渡益と圧縮損を両建て経理することが感覚にそぐわないことから問題となります。
評価差額的なニュアンスもあるので整理が必要かもしれません。
問題意識は、換地処分で清算金が交付された場合にそれが税務上譲渡として取り扱われるのか、評価差額として取り扱われるのかという点です。
(1)個人税務の取扱い
①所得税法の特例として
換地として土地または土地の上に存する権利(以下、「土地等」)を取得した場合には、区画整理で手放した(譲渡した)土地等のうち、
換地に対応する部分は税務上、譲渡がなかったものとみなされます(租税特別措置法33条の3)。
すなわち、上図の換地対応箇所(灰色網掛け部分)が譲渡がなかったとみなされます。
留意すべきは条文に、明確に「譲渡」と記載されています。
「譲渡」であるが、なかったものと「みなす」との規定です。
また、この措置法33条の3を読むに、個人についてのみの記載であることに気づかされます。
②土地区画整理法の考え方
その一方で、先述の土地区画整理法では、「譲渡」との規定はされていないように思います。
土地区画整理法第104条の規定により、換地計画において定められた換地は換地処分公告があった日の翌日から従前の宅地とみなされることとされています。
(2)法人税務の取扱い
①措置法の取り扱い【法人税の特例として】
上記個人所得税特例の条文に対応する法人の取り扱いとしての措置法64条65条では譲渡益と圧縮損を認識するのが、原則であるように読めます。
措置法65条でも「譲渡」と表現されています。
清算金は、対価補償金として取り扱われていることから、法人税上は土地の譲渡と考えるのでしょうか。
②措置法通達の取り扱い【法人税特例の特例として】
法人の会計処理に関する規定として以下のような通達がありました。下線部分は、筆者の追記です。
(換地処分等により取得した資産の圧縮記帳の経理の特例)
措通64(3)―17 措置法第65条第1項の規定を適用する場合において,法人が同項に規定する換地処分等により取得した土地等につき,
その帳簿価額を損金経理により減額しないで,換地処分等により譲渡した資産の同条第2項に規定する譲渡直前の帳簿価額と
その土地等の取得のために要した経費との合計額に相当する金額を下らない金額をその取得価額としたときは,これを認める。
この場合においても,措置法第65条第4項の規定の適用があることに留意する。
追加〔昭和50年直法2―21〕
注 釈
圧縮記帳における本来の経理は,譲渡益を計上するとともに圧縮損を計上すべきであるが,法人がこれをしないで,譲渡資産の帳簿価額を引き継ぐ方法で経理したときは,これを認めることとしたものである。
なお,この場合でも,確定申告書に添付する明細書においては,換地処分等による取得資産等の時価相当額を基礎として圧縮限度額等の計算を行うとともに,所定の収用証明書を添付することに留意する。
③法人の取り扱い小括・税務上の課題
さて、上記措置法及び通達の取り扱いから「原則的に譲渡」とし、「例外的に仕訳なし(清算金対応部分は譲渡益)」となっているように読めます。
以上において、売却益と圧縮損を認識する会計処理と従前の帳簿価額を引き継ぐ会計処理が認められているであろうことが判明しました。
ただし、土地区画整理法の「換地を従前宅地とみなす」考えと所得税法・法人税法の「原則譲渡」という考え方にはやや乖離がある点は、混乱を生じさせる制度上の問題点のような気が致しました。
5.問題意識Ⅱ 消費税の取り扱い
ここで、さらなる問題意識は、消費税法は上記取引の課税区分をどのように規定しているかということです。
土地区画整理法、土地改良法等に基づく換地処分、都市再開発法による第一種市街地再開発事業における権利変換は資産の譲渡等に該当しません。
権利変換により換地処分が行われる場合は、土地区画整理法第104条の規定により、換地計画において定められた換地は換地処分公告があった日の翌日から従前の宅地とみなされることとされています。
法律上、権利変換により取得する換地は従前の土地と何ら変わらないものとして扱われるため、
消費税法上も、以前から所有していた土地を相変わらず所有し続けているものとして考えます。
すなわち、消費税法は土地区画整理法に立脚した取り扱いとなっています。
また、換地処分に伴い授受される清算金は資産の譲渡等の対価に該当します。そして非課税取引となっています。
6.【図解まとめ】土地区画整理法・個人所得税法(措置法33条)・法人税法(措置法65条)・消費税法の考え方整理
土地区画整理法 | 個人 | 法人 | 消費税 | ||
原則 | 例外 | ||||
換地部分 | ないとみなす | (譲渡を)ないとみなす | 譲渡 | (譲渡資産の)簿価据え置き | ないとみなす(不課税) |
清算金部分 | 評定価額差額 | 譲渡所得 | 譲渡 | 譲渡 | 譲渡(非課税) |
このようなことから、振り返ると措置法通達64(3)-17が全体を理解する上で、重要な規定のような気が致します。