退職所得は確定申告に含めるべきかその建付と影響範囲の検討― 合計所得金額とその要件局面・国民健康保険料への影響を条文ベースで整理 ―

目次

注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき判断しておりますが、一若輩者の執筆であることから個別の案件での具体的な処理については責任を負いかねます旨ご理解いただきたく存じます。制度上の取扱いに言及しておりますが、個人的な見解であり、より制度深化に資すればと考えてのものです。

1.問題の所在

退職金を受給した場合、

  • 退職所得は確定申告に含めなくてもよいのではないか
  • 確定申告に含めると合計所得金額が増えて基礎控除が減るのではないか
  • 国民健康保険料に影響するのではないか

といった疑問が生じます。

本稿では、退職所得の法的位置付けと、確定申告との関係、そして各制度への波及効果を整理します。



2.退職所得の制度的整理

1⃣ 退職所得の定義

〇所得税法第30条

退職所得の金額は、(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2と規定されています。

2⃣ 税額計算方法

〇所得税法第89条

退職所得は、他の所得とは区分して税額を計算する「分離計算」の所得です。

ポイントは、分離計算であっても「別個の課税方式を選択できる」という意味ではない点だと思います。

3.確定申告との関係(任意選択ではない)

〇所得税法第121条

「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合、原則として確定申告は不要です。


〇所得税法121条2項

2 その年において退職所得を有する居住者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、前条第1項の規定にかかわらず、その年分の課税退職所得金額に係る所得税については、同項の規定による申告書を提出することを要しない。
一 その年分の退職所得に係る第30条第1項(退職所得)に規定する退職手当等(以下この項において「退職手当等」という。)の全部について第199条(退職所得に係る源泉徴収義務)及び第201条第1項(退職所得に係る源泉徴収税額)の規定による所得税の徴収をされた又はされるべき場合
二 前号に該当する場合を除き、その年分の課税退職所得金額につき第89条(税率)の規定を適用して計算した所得税の額がその年分の退職所得に係る退職手当等につき源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額以下である場合

しかしながら、医療費控除・寄附金控除・2か所給与住宅ローン控除初年度等により確定申告書を提出する場合には、退職所得も確定申告書に記載する必要があります。

したがって、確定申告をする場合には、退職所得のみを申告から除外するという選択はできないものと思われます。

4.退職所得は「合計所得金額」に含まれるか

ここが実務上の重要論点です。

1⃣ 合計所得金額の定義

〇所得税法第2条第1項第30号

合計所得金額とは、各種所得の金額の合計額をいう。

退職所得も「各種所得」に含まれます。

したがって、退職所得の金額(1/2後の金額)は合計所得金額に算入されます。

また、国税庁HP「専門用語集」において、「退職所得金額には、確定申告が不要な場合であっても計算に当たって加算する必要がある」旨、言及されています。

国税庁HP「専門用語集」より一部抜粋、網掛け筆者追加。

5.基礎控除その他税務関連領域への影響

基礎控除(所得税法第86条)は、合計所得金額に応じて段階的に減少します。

したがって、退職所得を含めた結果、合計所得金額が増加する場合には基礎控除額が減少又は消滅する可能性があります。

※実務上は、退職所得控除額が大きいため影響が出るケースは限定的ですが、高額退職金の場合には留意が必要です。

その他、合計所得金額を要件とする規定には以下の様なもの等が挙げられると思います。

  • 基礎控除(前掲) (所86)
  • 配偶者控除・配偶者特別控除 (所83、83の2)
  • 扶養控除 (所84)
  • 寡婦控除 (所80)
  • ひとり親控除 (所81)
  • 住宅借入金等特別控除 (措法41ほか)
  • 贈与税 直系尊属からの住宅資金の贈与の特例 (措法70の2)


以上のようなものは、退所得所得を考慮外でいる場合、所得控除や税額控除などを誤って多く計算してしまうことになります。

6.国民健康保険料への影響

〇地方税法第703条の4

国民健康保険料の所得割は「前年の総所得金額等」に基づきます。

その総所得金額等の範囲について、退職所得は分離課税所得に該当し、通常、国民健康保険料算定基礎には含まれません

そのため、退職金受給の翌年に国民健康保険料が急増するという事態は、原則として生じません。

※ただし、自治体条例による細部の規定は確認が必要です。

7.後期高齢者医療保険料への影響

賦課のもととなる所得から退職所得は除かれているようです。

「賦課のもととなる所得金額」に含まれる主な所得額 ,東京都後期高齢者医療広域連合HP。R8.2.26訪問より一部抜粋。

8.実務上の留意点

退職所得は源泉徴収で完結するケースが多いため、「税務上の影響はない」と誤解されやすい所得です。

しかし、基礎控除の逓減・配偶者控除判定・扶養控除判定など、合計所得金額を要件とする制度には影響を与える可能性があります

9.まとめ

論点

結論
確定申告を行う場合に退職所得を申告から除外できるかできないと思われる
退職所得は合計所得金額に含まれるか含まれる
基礎控除に影響するか高額退職金では影響あり
国民健康保険料・後期高齢者医療保険料に影響するか原則なし

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