反対株主の買取請求権行使の場合を含む株式交換等完全子法人の株主の税務まとめ(消費税・法人税・所得税)

目次

注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき判断しておりますが、一若輩者の執筆であることから個別の案件での具体的な処理については責任を負いかねます旨ご理解いただきたく存じます。制度上の取扱いに言及しておりますが、個人的な見解であり、より制度深化に資すればと考えてのものです。

1.株式交換の概要

上場会社においても、経営統合や資本算入の手段として組織再編を手法として用いるケースがあります。
例えば、既存の2法人について100%の親子会社関係を構築する場合に株式交換という手法が利用されます。

投資として上場株式を個別に運用している場合には、偶然組織再編の当事者になるケースも出てくるかもしれません。
株式交換を行うためには、原則として議決権の過半数を所有する株主が出席し、その3分の2以上の議決権の承認を株主総会の特別決議として得る必要がありますが、
当該企業の経営に関心がない当該上場会社の株式を保有する少数株主は、流れのままに親会社株式を取得するか金銭で対価を受領するか選択の必要に迫られます。

ホールディングス化を図る場合や他の企業を傘下に収める手法として組織再編が行われる場合には、
株式交換子会社株主は既存の株に変えて株式交換親会社株が交付されるか、反対株主の買取請求を行い株式の対価を金銭で受領することになります(会社法785条)。

2.(金銭不交付)株式交換で、完全子法人株式と引き換えに完全親会社の株式を取得した場合

さて、この際に検討が薄くなる論点として「消費税」に関連する論点があります。
交換比率などで、自己の損得がどのようになるかや税務上の適格・非適格で含み益の行く末に関心がもたれるところですが、
消費税に関する論点までは、検討が向きにくいと個人的に考えます。

 2-① 消費税の取扱い

保有する株式を譲渡した対価として新しい株式を受け取る取引となりますので、適格組織再編、非適格組織再編のいずれに該当するかに関わらず、消費税法上の有価証券等の譲渡に該当します(消費税法第6条第1項、消費税法別表第一第2号)。

したがって、消費税の計算上、交付された株式対価である株式の時価の5%が非課税売上となるため、課税売上割合が減少することになります(消費税法施行令第48条第5項)。

このことによって課税売上割合が95%未満になれば、無条件で課税仕入れに係る消費税額を控除することはできずに、個別対応方式か一括比例配分方式を採用して控除すべき消費税額を計算することになります。

法人株主の場合は特に、所有する投資有価証券が外的要因によって上記のような処理の必要が出てくるので注意が必要です。

個別対応方式参考記事

2-② 法人税の取扱い(法人が株式交換完全子法人の株主である場合)

法人税法上の譲渡損益は、金銭等不交付合併の場合、原則として生じません(法法61の2⑨、法令119の7の2④⑤)。
この場合に、取得する親法人株式の取得価額は、旧株の株式交換の直前の帳簿価額に相当する金額となります(法令119の3⑮)。
文理上は、所得税法のように「なかったものとみなす」というような表現にはなっていません。
(譲渡対価の額が)旧株の当該金銭等不交付株式交換又は適格株式交換の直前の帳簿価額に相当する金額とするという表現です。

2-③ 所得税の取扱い(個人が株式交換完全子法人の株主である場合)

個人が株主である場合の取扱いは以下の様になっています。

所得税第57条の4  株式交換等に係る譲渡所得等の特例
所得税法 居住者が、各年において、その有する株式(以下この項において「旧株」という。)につき、その旧株を発行した法人の行つた株式交換(当該法人の株主に法人税法第2条第12号の6の3(定義)に規定する株式交換完全親法人(以下この項において「株式交換完全親法人」という。)又は株式交換完全親法人との間に当該株式交換完全親法人の発行済株式若しくは出資(当該株式交換完全親法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係がある法人のうちいずれか一の法人の株式(出資を含む。以下この項において同じ。)以外の資産(当該株主に対する剰余金の配当として交付された金銭その他の資産及び株式交換に反対する当該株主に対するその買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産を除く。)が交付されなかつたものに限る。)により当該株式交換完全親法人に対し当該旧株の譲渡をし、かつ、当該株式の交付を受けた場合又はその旧株を発行した法人の行つた特定無対価株式交換(当該法人の株主に株式交換完全親法人の株式その他の資産が交付されなかつた株式交換で、当該法人の株主に対する株式交換完全親法人の株式の交付が省略されたと認められる株式交換として政令で定めるものをいう。)により当該旧株を有しないこととなつた場合には、第27条(事業所得)、第33条(譲渡所得)、第35条(雑所得)又は第59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
の規定の適用については、これらの旧株の譲渡又は贈与がなかつたものとみなす。

居住者が、その有する株式(旧株)について、その旧株を発行した法人の行った株式交換により株式交換完全親法人に対しその旧株の譲渡をし、かつ、
次のイまたはロのうちいずれか一の法人の株式(出資を含みます。)の交付を受けた場合には、その旧株の譲渡はなかったものとみなされます。
イ その株式交換完全親法人
ロ その株式交換完全親法人との間に完全支配関係がある法人

2-④ まとめ

(金銭不交付)株式交換で、完全子法人株式と引き換えに完全親会社の株式を取得した場合の税目毎の取扱いは以下の様になっていると思われます。

3.株式交換で、完全子法人株式の買取請求を希望した場合

株式交換する場合、反対株主は、株式交換完全子会社に対し、自己の有する株式(株式交換完全子会社の株式)を公正な価格で買い取ることを請求することができるとされています(会社法785①)。
株式買取請求は、株式交換の効力発生日(以下「効力発生日」といいます。)の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならないとされています(同法785⑤)。そして、当該買取請求に係る株式の買取りは、効力発生日にその効力を生ずるとされています(同法786⑤)。

 3-① 消費税の取扱い

買取請求を希望し、株式交換完全子法人がその株式の買取を行った場合には、以下の規定による取扱いになると思われます。

消費税法基本通達5-2-9
法人が自己株式を取得する場合(証券市場での買入れによる取得を除く。)における株主から当該法人への株式の引渡し及び法人が自己株式を処分する場合における他の者への株式の引渡しは、いずれも資産の譲渡等に該当しない。

3-② 法人税の取扱い(法人が株式交換完全子法人の株主である場合)

買取の相手方が発行法人であることが想定されることから、自己株の取得と同様の取扱いになると想定されます(参考法法61の2⑨括弧書き)。
また、みなし配当の適用範囲内であると思われます(法24①五)。
なお、株式売渡請求に係る承認の場合には、株式交換等完全子法人株式を株式交換等完全法人に時価で譲渡したものとして譲渡損益が生じます。
(中村慈美「令和元年版図解組織再編税制」大蔵財務協会P379)

 3-③ 所得税の取扱い(個人が株式交換完全子法人の株主である場合)

個人株主の所有する株式について、発行法人による自己の株式の取得により個人株主が金銭の交付を受けた場合には、その交付を受けた金銭の額のうち、その法人の連結個別資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式に対応する部分の金額を超える部分の金額に係る金銭は配当等とみなされます(所法251四)。
また、配当等とみなされる部分の金額を除く部分の金額は、株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされます(措法37の103四)。
(注) 一定の事由による法人による自己の株式の取得は、配当所得の対象から除かれていますが、株式交換に反対する株主の買取請求に基づく買取りは、この一定の事由には含まれていません(所令61)。
大阪国税局 文章回答事例 株式交換に反対する個人株主の株式が買取請求に基づき買い取られた場合の課税関係について(別紙)(令和6年7月22日訪問)🔗。

 3-④ まとめ

株式交換で、完全子法人株式の買取請求を希望した場合の旧株主の各税目毎の取扱いは以下の様になると思われます。

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