組織再編の行為計算否認にかかる不当性要件について

【参考】「東京地裁 組織再編成の行為計算否認を巡る事件で国勝訴平成28年最高裁判決以降で 法法132の2 に関する初の司法判断」『税務通信』3567号 2019年8月5日。
【参考】「 最高裁 大手検索サイト運営法人の上告棄却で終結」『税務通信』 3399号  2016年03月07日。
【参考】「《重要判決解説》 組織再編成に係る行為又は計算の否認規定(法132条の2)の解釈,その射程と実務的対応」『税務通信』3429号  2016年10月17日 。
【参考】荒 井 英 夫「論 説 ヤフー事件最判を踏まえた法人税法132条1項と132条の2の 不当性要件の解釈について」『税大ジャーナル2019年6月号』。

目次

1.概要

東京地方裁判所は6月27日,自動車部品の製造・販売を行う会社(原告)と国との間で, 法人税法132条の2 〈組織再編成に係る行為又は計算の否認〉の適用の是非等を巡り争われた事件について,原告の請求を棄却し,国が行った更正処分等は適法であると判断した(平成28年(行ウ)第508号)とのことです。

この件については、争点 A「法人税法132条の2の適用の是非」及び争点B「同条の不当性要件に該当するか否か」が争点になっています。

争点Bについては,本件における合併は,組織再編税制に係る未処理欠損金の引継ぎ規定( 法法57 ②)を租税回避の手段として濫用することによって法人税の負担を減少させるものとして, 法人税法132条の2 にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの(不当性要件)」に該当すると判断しています。

具体的には,不当性要件を満たすか否かの判断に当たっては,平成28年最高裁判決で示された①②を考慮し(下記 2.不当性要件の意義 参照),本件合併が,組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって,未処理欠損金の引継ぎ規定( 法法57 ②)の趣旨や目的から逸脱する態様でその適用を受けるものと認められるか否かという観点から判断すべきとし,認定事実を当てはめて判断しています。

なお,本件は令和元年8月現在,敗訴した原告が東京高裁に控訴しているとのことです。

2.不当性要件の意義

平成28年最高裁判決(平成28年2月29日第一小法廷)で示された 法人税法132条の2 にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの(不当性要件)」の意義

法人税法132条の2 にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは,法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり,その濫用の有無の判断に当たっては, ①当該法人の行為又は計算が,通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり,実態とはかい離した形式を作出したりするなど,不自然なものであるかどうか,②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか 等の事情を考慮した上で,当該行為又は計算が,組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって,組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。

3.私見

組織再編成の行為計算否認を巡る事件については、実務家である諸先輩や学者の先生方が様々な観点から様々な論理的見解を示されており、大変奥行きのある論点であります。

具体的には、「不当減少性要件の意義」、「租税回避の概念」、「濫用判断の観点」、「組織再編税制に係る各規定の趣旨・目的とその解釈」、「個別否認規定による否認と一般的否認規定による否認のすみ分け」、「 法人税法第132条の2 における否認対象行為の主体」といった重要な論点が内在しています。当該論点について、現時点で浅学なため、若輩者が言及すべきではないと考えます。

しかしながら、諸先輩が開陳されるように、

「税務コンプライアンスの意識が比較的高いわが国の大手企業の間では, 本判決がもたらす委縮効果 (特に,どのような場合に 法132条の2 に基づく否認がなされるのかに関して,予測可能性が大幅に減少したことによる委縮効果)により,…… 経営統合・事業統合やグループ内組織再編が進まなくなること が強く懸念される。」

といった指摘 (太田洋「ヤフー・IDCF事件東京地裁判決とM&A実務への影響[下]」商事法務№2038(2014.7)44頁。 )に関しては一実務家として共感するところです。

上記指摘は、大手企業を対象として言及していますが、中小企業においても同様のことがいえると思います。

中小企業の自由闊達な取引行為を萎縮させないような予測可能性の増加が期待されます。

次に、今回の事件については、組織再編に関わる者として重要な判例であると考えますが、「税務通信」では以下のように今回の判旨をまとめています。

~通常想定されない組織再編成の手順や方法に基づくもの・不自然なものであること等に加えて,未処理欠損金の引継ぎによる税負担の減少以外に合併を行うことの合理的な理由となる事業目的等もないため,組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したもので,未処理欠損金の引継ぎ規定( 法法57 ②)の趣旨や目的を逸脱する態様であると認定した。

「法人の行為・計算が不自然」「租税回避以外に合理的な理由となる事業目的等が存在しない場合」の要件について、種々の意見がある中で、今回の判断においては、

組織再編行為の前後で実態に変化が無いにも関わらず、未処理欠損金の引継ぎによる税負担の減少のみが効果として現れた点がポイントであったと考えています。

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