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注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき判断しておりますが、一若輩者の執筆であることから個別の案件での具体的な処理については責任を負いかねます旨ご理解いただきたく存じます。制度上の取扱いに言及しておりますが、個人的な見解であり、より制度深化に資すればと考えてのものです。
1.エンジェル税制とは
エンジェル税制とは、スタートアップへ投資を行った個人投資家に対して税制上の優遇措置を行う制度です。
令和5年度の改正において、居住者等が、保有株式を売却して生じた譲渡益を資金として、
①起業した場合や、
②プレシード・シード期のスタートアップへ投資した場合、
再投資分の譲渡益について上限20億円の非課税措置を創設されました。
従前の制度では、エンジェル税制の適用で再投資分の譲渡益については課税の繰延べが可能でしたが、
改正後は、非課税措置の対象となる20億円を超えた部分が課税の繰延べの対象となります。
また、令和5年度の改正により、従来の要件に加え一定の要件を満たす設立間もないスタートアップへの投資や、
自己資金による起業について非課税措置の対象としています。
適用時期は令和5年4月1日以降の再投資について適用となります。
2.起業特例とは
起業特例は、会社設立の際の出資額について、
設立の年の株式譲渡益から控除し、20億円を上限として非課税とする措置です。
起業特例の適用を受けるにあたっては、その個人要件を会社成立の日に、企業要件を、
会社を設立した年の12月31日時点で満たすことが必要になります。
金銭の払込みにより株式を取得して会社を設立した後、その株式会社は都道府県に対して、
設立の年の12月31日時点で税制適用の要件を満たしていることの確認申請を行います。
申請を受けた都道府県は、確認後、スタートアップへ『確認書』を交付します。
この確認書をスタートアップは発起人へ提出し、
発起人が確認書を確定申告の際に税務署へ提出して手続きが完了します。
現在時点でそのガイドラインや申請書類は準備中となっており、まだ内容を網羅的に把握することはできませんが、
制度設計者の話によれば、従前のエンジェル税制制度での手続上、
煩雑で手数がかかるとされていた申請事務がおよそ半減しているようです。
以下の要件に係る記載については、特に、経済産業省HP「起業に対する措置」🔗(R5.6.27閲覧。)を引用しています。
①個人の要件
起業特例の適用を受けるにあたっては、次の個人要件を会社成立の日に、企業要件を、会社を設立した年の12月31日時点で満たすことが必要になります。
個人Ⅰ | 設立した会社の発起人であること |
個人Ⅱ | 設立した会社に自らが営んでいた事業の全部を承継させた個人及びその親族等でないこと |
個人Ⅲ | 金銭の払込みにより株式を取得していること |
②企業(法人)の要件
企業Ⅰ | 設立1年未満の中小企業者であること |
企業Ⅱ | 次の設立経過年数(事業年度)毎の要件を満たすこと※ |
企業Ⅲ | 外部(特定の株主グループ以外)からの投資を1/100以上取り入れている会社であること |
企業Ⅳ | 大規模法人グループの所有に属さないこと |
企業Ⅴ | 未登録・未上場の株式会社であること |
企業Ⅵ | 風俗営業等に該当する事業を行う会社でないこと |
企業Ⅶ | 他の事業者から譲り受けた事業を主たる事業としていないこと |
※設立経過年数ごとの要件
設立経過年数 | 要件 | |
設立年数1年未満かつ最初の事業年度を未経過 | ①常勤の研究者あるいは新事業活動従事者≧2人+それが常勤の役員・従業員に占める割合≧10% | ②事業計画※1(販管費※2の対出資金額比率>30%の見込みを記載)を有する |
設立年数1年未満かつ最初の事業年度を経過 | ①同上 | ④販管費※3の対出資金額比率>30% |
又は | ||
③試験研究費等※3の対収入金額比率>3% |
※1:事業の将来における成長発展に向けた事業計画 ※2:最初の事業年度における金額 ※3:前事業年度における金額
3.私見
経済産業省の制度設計をされた方々の解説YouTubeをいくつか拝見しましたが、
制度構築の趣旨や目的に大きく賛同するところです。
スタートアップに税務的な観点から影響を与えるものとして例えば、
インボイス制度などの導入は、新規開業のインセンティブを阻害する懸念を有していたところ、
本制度は起業マインドを高め、起業促進の効果があるように思われます。
また、その税効果がもたらすであろう影響を想像するに衝撃をもって受け止めた次第であります。
優秀な投資家の存在を前提とすれば、
継続的・永続的にベンチャー企業が萌芽していく仕組みであるように思われ、
その経済効果を予測するにつけ、利用が大きく広がればと思います。
現時点の情報では、本国の経済的再浮上に資する起爆剤の可能性を秘めた画期的な制度と思われます。
とりわけ、個人的にこの制度の優れていると思われる点は、
開業において起業家が最初に戸惑う会社法制や税制などの制度障壁に対して
経験豊富な投資家の関りによってアドバイスや解決策が期待できるという点です。
そのほか開業時の資金調達の側面では、
金融機関で対応できない部分のフォローを流動的・迅速的にエンジェル投資家が担うことが期待されています。
福岡市🔗では、国家戦略特区の「グローバル創業・雇用創出特区」として、
創業の支援と雇用の創出を応援し、制度上の後押し等が取り組みとして行われています。
この地においては、
特にエンジェル税制と相互にスタートアップに関わる制度を利用して世界的に活躍できる企業が育てばと願うばかりです。