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注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき判断しておりますが、一若輩者の執筆であることから個別の案件での具体的な処理については責任を負いかねます旨ご理解いただきたく存じます。制度上の取扱いに言及しておりますが、個人的な見解であり、より制度深化に資すればと考えてのものです。
Ⅰ.企業価値評価と財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスは、企業間のM&Aを検討する際に、実施されることが多い業務です。
また、取引以外にも相続や株式の移転が生じる際また、裁判上の要請から株式評価の前提として必要になる業務と思われます。
近年は、企業の成長戦略や事業承継の手段としてのM&A取引増加やM&Aの仲介を専門に行う業者の出現等を背景に、
グローバルな事業を展開する大企業のみならず、中小企業においても、財務DDが利用されるケースが増加し、財務DDに対する認知度も高まってきていると思われます。
その意義は、日本語では財務調査と言われますが、それを手段として企業価値の評価(いわゆるバリュエーション)評価・評定と関連します。
この財務DDは既に、公認会計士が提供する業務の中でも、代表的なものの一つとしての地位を確立しているといわれています。
その理由は、その実施手続に関して、財務諸表監査と共通する手法を多く用いるため、その担い手として公認会計士に期待が寄せられているところであり、また現実に実績を積んでいるのが公認会計士であるからだろうと思われます。
財務DDの本質は公認会計士の独占業務である「保証業務」ではなく、業務実施者が業務依頼者及び実施結果の利用者の関係者間で、業務対象に関して「合意された手続」を実施し、その実施結果を報告することなので、いわゆる2項業務と言われています。
Ⅱ.企業価値の概念とその測定・評価
Ⅱ-1.企業価値の概念


Ⅱ-2.企業価値評価の手法
とりわけインカム・アプローチとは、企業買収における主たる企業評価方法のひとつで、将来見込まれる収益の価値に着目した評価手法をいいます。
将来獲得される利益、キャッシュ・フローまたは配当を現在の価値に還元し、企業価値を算定します。
代表的なものでは、DCF法、収益還元法及び配当還元法があり、将来のキャッシュ・フローに対してリスクを反映させた割引率を適用し算定する方法です。
例えば、フリーキャッシュフロー法の基本式は以下の様になります。

Ⅲ.加重平均資本コスト
4.公益法人制度改革の全体像の規制根拠とその内容
ここで、将来キャッシュフローを割り引く割引率は加重平均資本コストを用いるとされ、
株主資本コスト(ke)と負債資本コスト(kd・(1-τ))を、株主資本価値(E)と負債価値(D)によって加重平均することによって計算されます。
資本コストとは企業が資本を調達するにあたり、債権者や投資家に支払う必要がある費用のことです。逆の立場から見れば、投資家・株主・債権者にとって企業に対する要求収益率という感じです。
インカム・アプローチにおける資本コストの推定は
① 資本コストの推定 評価対象会社が上場会社である場合には、一般に、特定の資産評価モデルを利用して推定されます。
実務においては、資本資産評価モデル(Capital Asset Pricing Model)を援用して株主資本コストを推定する場合が多く、このモデルでは会社の株主資本コスト(ke)は以下のように表されます。

CAPMの援用は、他にあるモデルの場合よりもリスク要素が単一という簡素な点や、現代のポートフォリオ理論を背景とした学術的・理論的な一貫性の高さから、実務上の主流となっているようです。
ただし、一般的には分析対象の企業や事業、プロジェクトの投資期間によって、長期投資用もしくは短期投資用のデータが使い分けられます。
これらに関する情報は、情報提供会社から購入して利用することができ、また、自ら推定することも可能であると言われています。
いずれの場合であっても、安全利子率については長期国債利回り、市場リスク・プレミアムについては過去のリスク・プレミアム(株式市場の収益率と長期国債利回りの差)、会社のベータについては株価及び株価指数データ等に基づいて推定するのが一般的です。
具体的に市場リスクプレミアムは、株式市場とリスクフリー資産について、それぞれ算術平均(単純平均)した年率リターンを算出し、その差からエクイティ・リスク・プレミアムを計測します。
上述にあるような情報提供会社Ibbotson Associates Japan, Inc.のレポートではエクイティ・リスク・プレミアムを推計する際には、一般的により長い期間のヒストリカル・データが選好され、推奨されるとしています。
Ⅳ.企業評価の課題と会社の価値について
実務上は、完全市場を前提とするCAPMには織り込まれない追加的なリスク・プレミアムを資本コストに対して付加することも多く、
企業価値評価の手法として最も一般的に用いられるDCF法においては、事業計画上の見積、採用する割引率、想定する成長率などの変数の数が多く存在します。
具体的には、事業計画において予測に織り込む年数や予測利益・上述のヒストリカルデータ抽出する期間や選択する情報提供業者・配当の有無や臨時の損益への対応などはその
企業評価の実施主体にゆだねられていると考えます。
なおかつそれぞれの変数が相当程度の見積もりの幅をもつために、評価者によって全く異なる結果が算出される場合があると言われています。
それだけに、その主体として監査の職業的専門家である公認会計士にその担い手としての立場が期待されているともいえるのでしょうが・・・。
実際に利用する場合には、専門家が恣意性の排除を念頭に置きながら経験・知見に基づいて深い見識を変数に落とし込む必要があるように思います。