「専務」「常務」等の肩書がある場合の法人税上の論点である使用人兼務役員の取扱いについて

目次

注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき判断しておりますが、一若輩者の執筆であることから個別の案件での具体的な処理については責任を負いかねます旨ご理解いただきたく存じます。制度上の取扱いに言及しておりますが、個人的な見解であり、より制度深化に資すればと考えてのものです。

1.役員報酬の法人税法上の概要

役員報酬の損金算入に係る論点について実務上判断に迷うことがあります。

今回は、使用人兼務役員に係る論点のうち、特に副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員について調べた点を記載してみようと思います。

詳細な言及は、割愛しますが、役員に対する報酬は、利益調整を防止する観点から「定期同額」「事前確定」「業績連動給与」 のみ損金算入可能という取扱いになっています。

ここで、使用人を兼務する役員について支払われる給与は、法人税法の規制を受ける役員報酬部分と使用人給与部分が混在しますので、

法人税法の役員給与の規制を受けるのか使用人として規制の対象外なのかで、法人にとっての損金算入されるかどうかという重要な区分となります。

使用人兼務役員に支払われる賞与のうち、
使用人部分の賞与については,不相当に高額な部分を除き、原則、 損金算入できます( 法法34 ①)。
その要件としては以下が挙げられています。

取締役等の役員(社長,理事長等除く)のうち、

①部長,課長、支店長,工場長,営業所長など法人の機構上定められている使用人としての職制上の地位を有すること
②常時使用人としての職務に従事すること

の2点を満たすもの( 法法34 ⑥, 法令71 ①)となっています。

また、使用人兼務役員になれない役員が存在します。

上記の例外として

例えば、株式5%超持っており、かつ経営参加すればみなし役員とされます。
また、法人の“特定の部門 の職務を統括している”ものは除かれる( 法基通9-2-5 )とあります。

その除外されるものの具体例として、本部長・事業部長などが挙げられ、
例えば,総務・経理・人事等のバックオフィス事務全般 を統括する立場にある取締役総務人事本部長は使用人兼務役員に該当しません。

仮に,役職名が本部長ではなく部長であったとしても、“特定の部門の職務を統括している” 実態 が伴う場合は,役職名にかかわらず使用人兼務役員に該当しないことになるといいます。

実務上は、この統括しているのかしていないのかという認定が難しいように思います。 

例えば、複数の営業所をまとめる立場にある取締役営業部長は,“特定の部門の職務を統括している”として使用人兼務役員に該当しないと言われています。

 なお、使用人部分の賞与を損金算入するには、他の使用人への賞与と同時期に支給することが必要で( 法令70 三)、ここでいう同時期とは、必ずしも同日である必要はなく、 数日のズレがあってもよいとされています(税務通信3667号 2021年08月23日)。

役員報酬参考記事

2.職制上の地位について

さらなる例外として
法人の役員のうち,副社長・専務・常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員については、
たとえ職制上使用人としての地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事している場合であつても、税務上は使用人兼務役員としては認められず、従つてこれらの者に支給した給与については,その損金算入に一定の制限が設けられています(法34条)。

ここでいう副社長,専務,常務とは、法人の内部組織上明確にその地位が付与されている者、すなわち定款等の規定 又は総会若しくは取締役会の決議等によりその職制上の地位が付与された 役員をいうことのことです(消基通9-2-4解説)。
これにより、いわゆる自称副社長、自称専務、通称常務のごとく,職制上は単なるヒラ取締役であつてそ の実質は使用人兼務役員として認められてしかるべき者については,その 実質に則して取扱われることになるとされています。

3.職制上の地位の具体的判別法

さて、ここで疑問に思うのは、上記にあるように
職制上の単なるヒラ取締役が、内部組織上地位を付与されることなしに、副社長や専務を自称するケースが存在するのかということです。
そういう人がもしいたら、虚言癖じゃ?と当初この規程を読んだ際に感想を持ちました。

さらに、「通称」専務と呼ばれている人がいるとしたら、その人は紛れもなく実質においても専務ではないでしょうか?
単なる通称としてでも常務取締役の名称が冠された際には、いわゆるCOO(最高執行責任者)CFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)程度(社内ナンバー2~3)に偉くなっているというコンセンサスが周囲から得られているんじゃないでしょうか。
通達解説にいう通称・自称という表現にはどういう状況が想定されているのでしょうか。

また、上記にいう「内部組織上~その地位が付与」というのはどの程度をいうのかというのが判然としません。
総会議事録や役会議事録で疎明できるケースは別として現実には種々の状況があります。
より具体的には、総会や役会の決議は経ていないが、組織図上「常務」や「専務」という職制がある場合などです。

以下2つの判例を参考にその基準を抽出してみようと思います。

一つ目の裁決( 平14.1.31非公開裁決)(東京税理士会HP内記事、R6.8.8訪問。)では、

「通称として常務取締役の名称を使用したにすぎない」と認められた事例があります。
前提となる肩書は、「常務取締役営業本部長」です。
争点として、営業上の理由等により単なる通称として常務取締役等の名称が冠され、その地位が内部組織上 明確でない役員も少なくないから、このような役員であっても「使用人兼務役員とされない役員」に該当するか否かが問題となるとされました。

結局のところ、
定款の規定又は株主総会等の決議等により、役員に対し、職制上の常務取 締役の地位を付与した事実はなく、単なる通称等としてその名称を使用していたにすぎないと認められました。

「営業本部長」という使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事していたことが認められました。

もう一つの裁決(令和2年12月17日裁決)(国税不服審判所HP,R6.8.8訪問。)では、

専務取締役営業本部長という肩書が付与されていましたが、本件代表者が請求人(当事者法人)の全ての株式を保有することからすれば、本件代表者及び本件専務取締役による意思決定は、法人税 基本通達9-2-4にいう「定款等の規定又は総会若しくは取締役会の決議等」に 当たるものといえる。
とし、総会の議事録などが無くとも、代表者の決定によって内部組織上内部組織上明確にその地位が付与されている者といえるとしています。

裁決からの参考点として以下が挙げられます。

  •  自称する例としては、営業上の理由が挙げられている。
  •  総会決議を経ていなければ、単なる通称と判断される場合がある一方で、形式的な総会を開催していなくてもそれらの権限を有する者の決定・承諾において内部組織上の手続きを経ていると判断される場合がある。
  •  前者の裁決では本部長という統括的な肩書が付与されているが、法基通9-2-5に即した判断とはなっていない一方で、後者の裁決では、統括的立場が認定されその者は使用人になれない旨が述べられている。

上述の検討から、具体的に明確なメルクマールは得られませんでした。

裁決を読んでも、「営業上」を理由に、専務を自称すればそれは騙しのような気がして引っかかるのですが、、。

いずれにせよ、明確に内部組織上の地位が付与されていなくても  
専務や常務、副社長という肩書が登場してくるとよほど強力な理論武装がないと「使用人」として取り扱うのは難しそうに思います。

 
逆に実務上リスクがないようにするためには
会社法上の役員については、統括的立場を対内的にでも持たせてしまう場合には、
法人税法上の役員として処理するほかないのかもしれません。

PR

news line 

その他の最新ニュースはこちら

最新ニュース

Looking For A stylish Partner?