ラップ口座に関する法人税・所得税の取り扱いについて(注意すべき点・デメリット・私見)

分析のイメージ

目次

1.雑感・私見

 ラップ口座について耳にする機会が増えてきました。ラップ口座とは、金融機関が個人(及びおそらく法人も)に対して提供するサービスの一つであり、金融機関に資産運用を包括的に委ねるというものをいい、投資一任契約などと呼ばれています。

 先に、断わっておきたいのは税務的な詳細な取り扱いに係る説明は他の諸先輩方の論考や記事に譲る点です。それでは、この記事において何を命題としているかと言えばラップ口座の存在と税務・会計事務の関りについてです。証券に係る営業及び契約が先行し、税務的な影響の説明が納税者に対して希薄となってはいないかという問題提起を行いたいということです。

 ラップ口座は主に富裕層向けの商品であり、近年証券会社においてその販売に力が入れられその市場は急速に拡大していると言われています(参考:Profession Journal 現代金融用語の基礎知識【第20回】「ラップ口座」事業創造大学院大学 准教授鈴木 広樹)。

 具体的に実務を通じて感じていることは、以下に挙げることです。

2.ラップ口座のデメリット-注意すべき点

1.当該商品が、投資家(個人・法人)の期待や理解に見合う内容かどうか。

 上記について誤解を恐れず簡潔に記載すれば、儲かるか儲からないかのリスクについて、投資家が十分に理解しているかどうかです。ラップ口座については、ヘッジファンドのように機動的な運用をしてくれると勘違いしている人が多いと言われています。投資家の期待と実際の商品内容との間の期待ギャップについては十分な注意が必要です。例えば日経電子版 「ラップ口座」はコストの把握を(運用相談室)🔗では、そのコストや普及している背景についての言及があります。先に参考としたPROFESSION JOUNALの記事においても、投資の知識を身に着ける必要性が謳われています。投資は自己責任といわれますが、ギャップ解消の方策は証券会社が親身な説明を図る一方で、投資家が購入にあたり十分な検討を行うことであると考えます。

2.当該商品に係る税務的な取り扱いを投資家(個人・法人)が理解しているかどうか、またそのタックスインパクトを事前に予見して購入の意思決定をしているかどうか。

 実務上、経営が先行し、経理・税務が後追いになるということはよくあることだと思います。ただ、証券税制についてはタックスインパクトが比較的大きくなりがちであるため特に注意が必要と考えます。また、当該税務の検討・処理に要する事務負担についても注意が必要です。とりわけ証券投資税制についてはその内容が複雑で、近年改正が頻繁に行われており、一般の富裕層である個人はもとより、日ごろ会計に携わっている法人の経理や財務の担当者であっても制度を完全に網羅している人は少ないと思われます。(筆者もその一人です。)

・法人について

 法人のラップ口座に係る処理についての法人税に係る規定の記載は割愛しますが、ラップ口座を運用する結果生じる事務負担の増加については事前に検討する必要があると考えます。とりわけ、口座全体を一取引単位ととらえることはできず、口座内の各信託毎に損益を把握していく必要があると思われます。そのため、その口座内でどれほどの種類・数の信託商品が売買されるかについては留意が必要です。

期中の分配金は普通分配か区別分配かなどの判断や取得時手数料を取得価額に含めるか、およびそれに係る消費税処理やインボイス要件についての検討などが必要になるのではないのでしょうか。

また、含み益や含み損が実現するタイミングを把握する必要があると思われます。

・個人について

 下段に一例として国税庁が質疑応答事例として公表しているラップ口座の所得区分について引用しています。当該引用を用いてお伝えしたいのは、この下記事例でのラップ口座に係る所得を「譲渡所得」でなく、「雑所得・事業所得」であると説明されていることにつき、その内容を理解し、それに係る自己の税額への影響が如何ほどになるかを理解して契約している人がどれほどいるのだろうかということです。(事業所得に分離課税があることを最近まで知りませんでした。)この内容は、結構ディープであると考えています。

3.国税庁 質疑応答事例の引用

【照会要旨】

 A証券会社は、「投資一任契約」に係る業務の認可を受けた投資顧問業者で、国内上場株式への分散投資を目的とする投資一任口座の取扱いを開始しました。
 この投資一任口座は、顧客がA証券会社との間で締結する投資一任契約に従って資産運用するための専用口座で、投資一任契約により、A証券会社は投資資金の運用に関する投資判断とその執行に必要な権限の委任を受けて顧客に代わって資産運用を行う一方、顧客は投資顧問報酬として固定報酬及び成功報酬を支払うこととなっています。なお、この投資一任契約の契約期間は1年間です。
 この場合、この投資一任口座における国内上場株式の売買取引から生じる所得区分はどのようになるのでしょうか。

【回答要旨】

 この投資一任契約に係る成果は顧客に帰属することとなりますので、それが株式等の譲渡によるものである場合には、株式等の譲渡による事業所得、雑所得又は譲渡所得のいずれかの所得として分離課税の対象となりますが、これらの所得のいずれに該当するかは、株式等の譲渡が営利を目的として継続的に行われているかどうかにより判定することとしています(措通37の10・37の11共-2前段)。
 この場合、一般株式等に係る譲渡所得等の金額又は上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、上場株式等は流動性が高いことから「営利・継続取引」される可能性が高いとして事業・雑所得に区分しうるものとする一方、一般株式等は流動性が低いとして譲渡所得に区分し、上場株式等であっても、その株式等の所有期間が1年超にわたるものの所得の実現は保有期間中の値上り益の実現とみて、譲渡所得に区分するものとしています(措通37の10・37の11共-2後段)。
 この投資一任契約は、所有期間1年以下の上場株式の売買を行うものであり、また、顧客が報酬を支払って、有価証券の投資判断とその執行をA証券会社に一任し、契約期間中に営利を目的として継続的に上場株式の売買を行っていると認められますので、その株式の譲渡による所得は、事業所得又は雑所得に当たるものと考えられます。

【関係法令通達】

 租税特別措置法第37条の10、第37条の11
 租税特別措置法関係通達37の10・37の11共-2

注記
 令和元年10月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。

国税庁 投資一任口座(ラップ口座)における株取引の所得区分🔗

4.主要な証券会社におけるラップ口座に係る税務的な説明

ラップ口座における上場株式等の譲渡

  • ラップ口座において運用される上場株式等の譲渡益は、個人の場合、申告分離課税の対象となり、通常「上場株式等の譲渡による雑所得」として確定申告を行うことになります。なお、その年分の確定申告においては、「上場株式等の譲渡による譲渡所得」や「上場株式等の譲渡による事業所得」がある場合、これらの所得と通算し、「上場株式等の譲渡所得等」を計算することになります。
  • ラップ口座については特定口座を利用できるものもあります。この場合、特定口座内で他の株式等の譲渡損益と通算されることになります。
  • 個人のお客さまがラップ口座における運用報酬として金融商品取引業者(証券会社)にお支払いになった金額は、ラップ口座における上場株式等の管理・運用等に係る費用であり、原則として、上場株式等の譲渡による雑所得または事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することができるものです。しかし、ラップ口座において特定口座をご利用の場合、「特定口座年間取引報告書」の「取得費及び譲渡に要した費用の額等」の欄に記載されているのは、譲渡所得の金額の計算上控除することができる取得費および譲渡に要した費用に限られており、ラップ口座の管理・運用等に係る費用は含まれていません。したがって、この運用報酬を必要経費に算入して上場株式等の譲渡による雑所得または事業所得の金額を計算するには、確定申告が必要です

    ※上記下線筆者追記(R5.10.27)

    令和4年以降は、当該ラップ口座内で所得計算に反映されることになるため、確定申告は不要になるとのことです。(この改正、ひっそり行われていやしませんか・・・)。

5.まとめ

ラップ口座で取引を行うに当たっては、そのサービスの前提となる「取引一任」の意味を十分に理解する必要があるとと思われます。

口座開設の主体が法人である場合、取引数量増加に伴う事務作業増加や損益が会計上どのように影響するのかの管理が伴います。

また、個人所得税では、上記の管理コストのほか税区分が、どのようになるのかには判断が伴います。

本来的には、納税主体である会社や個人がその内容を個別具体的に把握するのがもちろんです。それに加えてそのような商品・サービスを販売している側についても、上記の点について十分な説明が求められると思っています。

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