人格のない社団が行うECサイトのようなインターネット販売と収益事業の関係から法人税納税義務への問題提起

目次

注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき判断しておりますが、一若輩者の執筆であることから個別の案件での具体的な処理については責任を負いかねます旨ご理解いただきたく存じます。制度上の取扱いに言及しておりますが、個人的な見解であり、より制度深化に資すればと考えてのものです。

1.人格なき社団という組織体について

人格のない社団等とは、法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものをいいます(法人税法2条①8)。

法人でない社団とは,次のものをいうとされています(基通1-1-1)。
「多数の者が一定の目的を達成するために結合した団体のうち法人格を有しないもので、単なる個人の集合体でなく、団体としての組織を有して統一された意思の下にその構成員の個性を超越して活動を行う」ものをいい、次に掲げるようなものは,これに含まれません。

(1) 民法第667条(組合契約)の規定による組合
(2) 商法第535条(匿名組合契約)の規定による匿名組合

なかなかに痺れる定義づけで、構成員の個性を超越した統一意思活動団体であるということです。

また、法人でない財団というのは、「一定の目的を達成するために出えんされた財産の集合体で特定の個人又は法人の所有に属さず、
一定の組織による統一された意思の下にその出えん者の意図を実現すべく独立して活動を行うもののうち法人格のないもの」をいいます(基通1-1-2)。

例えば、PTA、町内会、研究会、同窓会、同業者団体、マンションの管理組合などが人格のない社団等に該当し、税法上は法人とみなされ、一定の場合に法人税が課税されます(法人税法3条)。

これは一般事業者との課税の公平を期するために、一般事業者と同様の活動をする場合には、人格のない社団等にも法人税等の課税が行われています。

 

なお、法人税法別表第二には掲げられていませんが,その設立根拠法において,公益法人等とみなされている法人に,NPO法人のほか,次のようなものがあります( 措法42の3の2① 表二, 措令27の3の2 参照)。

(法人税法以外の法律で公益法人等とみなされている法人)
(1) 認可地縁団体(地方自治法260の2⑯)
(2) 管理組合法人(建物の区分所有等に関する法律47②⑬)
(3) 団地管理組合法人(建物の区分所有等に関する法律66,47②)
(4) 法人である政党等(政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律7の2①,13①)
(5) 防災街区整備事業組合(密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律133①,164の2①)
(6) マンション建替組合(マンションの建替え等の円滑化に関する法律5①,44①)
(7) マンション敷地売却組合(マンションの建替え等の円滑化に関する法律116,139)

このように,法人税法以外の法律によって,公益法人等とみなされている法人があることに留意を要します。

2.人格のない社団等の法人税の納税義務について

人格のない社団等については、収益事業を行う場合に、法人税を納める義務が生じます(法人税法4条)。

株式会社などはその存在の前提に営利追及という目的があることからその器で生じた収益はすべからく課税という考えがある一方で、ビジネスを前提としていない組織体については商売を営んだ場合にそこには課税を行うという考えだと思われます。


ここで収益事業は、販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいいます(法法2①十三)。
収益事業を行う場合とは、下記のような場合が該当します(法人税法基本通達15-1-1~15-1-5)。

  1. 令第5条第1項各号収益事業の範囲に掲げる事業のいずれかを行う場合
  2. 業務の全部又は一部を委託契約に基づいて他の者に行わせている場合
  3. 常時店舗、事務所等事業活動の拠点となる一定の事業場を設けている場合
  4. 継続して事業活動を行う場合

3.人格なき社団が行う収益事業に関する問題意識

人格なき社団に限った話ではありませんが、「収益事業」についてのみ法人税課税を受ける組織体においては、

その日々(時限的を含む)の活動が、「収益事業」に該当するかどうかが納税義務の判断に直結するため重要な問題です。

とくに事業該当性の判断が、法人税の納税義務の有無に影響を与えます。

すなわち上記の、③「事業場を設けて行われる」と④「継続して事業活動を行う」の事実認定が法人税を支払うか否かの判断にとって重要な気がします。

しかしながら、「事業場」の概念や「継続した事業活動」の概念が、近年のデジタル社会の中での規定として綻んできてはいないかと思われるのです。

なお、参考として地方税法では、均等割りなどの関連から事業所の定義が重要ですが、地方税取扱通達に以下のような規程があります。

  1.  事務所又は事業所(以下「事務所等」という)とは、それが自己の所有に属する ものであるか否かにかかわらず、
    事業の必要から設けられた人的及び物的設備であって、そこで 継続して事業が行われる場所をいうものであること。
    この場合において事務所等において行われる事業は、当該個人又は法人の本来の事業の取引に関するものであることを必要とせず、
    本来の事業に直接、間接に関連して行われる附随的事業であっても社会通念上そこで事業が行われていると考えられるものについては、
    事務所等として取り扱って差し支えないものであるが、宿泊所、 従業員詰所、番小屋、監視所等で番人、小使等のほかに別に事務員を配置せず、
    専ら従業員の宿泊、監視等の内部的、便宜的目的のみに供されるものは、事務所等の範囲に含まれないものであること。
  2.  事務所等と認められるためには、その場所において行われる事業がある程度の継続性をもった ものであることを要するから、
    たまたま2、3か月程度の一時的な事業の用に供する目的で設け られる現場事務所、仮小屋等は事務所等の範囲に入らないものであること。

4.デジタルコンテンツの収益事業該当性の考察

さて、近年のIT事業などがどのように適用されるかは不明な点が多いように思います。

一般的に事業場とは、工場、事務所、店舗のように一定の場所において相関連する組織の下に継続的に行われる作業の一体をいいます。 
「事業所」は移動販売や委託販売も事業所とさています(法人税基本通達 15-1-4)。

具体例考察として、ネット通販はどうでしょうか。

ネット通販事業のどこに事業場があるのでしょう。直送品を扱い、仕分け梱包する作業がなく、また本社機能としての事務所を有していない場合はなおさらです。

より具体的には、若年起業家が数名集い、各人の個性を超越した統一意思において喫茶店のwifi経由でインターネットにアクセスし、大手インターネット販売サイトに仮想出店し、デジタルコンテンツを第三者へ販売した場合はどうでしょうか。

ネット通販・ECサイトを考える際に、「事業場」という文言から解釈論出し、当てはめていくのは無理があるように感じます。

佐々木一憲税務大学校研究部教授の解釈では、

インターネット上のウェブサイトについても、そのウェブサイトを構成するコンテンツをアップロードするサーバ等の物理的存在も含めて、
すでにそれ自体がネット空間上で公然性を有している存在といえることから、
「事業場を設けて行われるもの」に該当しないとする、よほどの事情は見当たらない。

という苦心を察する言い回しで表現・判断をされています。

近年では、物理的サーバーを有さず、サブスクリプションやクラウド上でサイトを管理するケースもあります。
ノートパソコンなど可搬性のものでコンテンツをアップロードする場合やサーバーが海外にある場合はどうでしょうか。

上記のサーバーの物的存在という解釈も個人的には難しくなってくると感じます。

要するに、時代を経て生産活動自体が人間の手を離れるようになってくると、人的な役務提供の概念が希薄となり、AI等がクラウド上でサービスを提供するようになると、その事業場という物理的所在は判断しにくくなってきます。

極端には、半導体の一回路上に事業場を見出すケースもでてくるかもしれません。

それは、もはや日本語としての「事業場」や「場所」という語義から逸脱してはいませんでしょうか。

人的な役務提供は、電気信号が担い、物的設備は仮想空間に置き換えられてきています。

元来その判断が難しい論点もありました。例えば、野菜の無人販売等は事業所でなく、移動販売車は事業所などというような個別の判断はその境目が明確でなく、ならば移動販売車上で野菜の無人販売をした場合はどうだろうというような論点です。

近年、その不明瞭な領域がさらに広がってきている印象です。

次に、「継続して事業活動をおこなう」に関してですが、こちらの方はデジタルコンテンツ事業の場合には、あてはまりやすいような気がします。
税務でよく見かける営利団体の考え方に自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務があります。
「継続して」には、暗に「反復継続」のニュアンスが内在しているように考えると、
ECサイトは常時そのアクセスを受け入れていることから継続しているように思えます。
ただし、そのECサイト上の商品の陳列や、商品発送業務において、時間的に継続した役務が行われていない場合の判断基準は判然としません。

5.暫定的着地・問題提起

結論の明言を避ける形ですが現実には、総合的判断によって結論を導くしかないのだと思われます。
そのため、より制度上の対応、税法上の規定の明文化として求められる気が致します。

佐々木一憲税務大学校研究部教授は、
「デジタルコンテンツの提供事業等と収益事業の判定について」税務大学校論叢第 89号,平成 29 年6月🔗において、以下のように語られています。

現行の収益事業課税制度が収益事業を特定する方式を採用している以上、
その制度趣旨である課税上の公平の維持を図るためには、
社会が取り巻く状況や経済情勢の変化に伴う公益法人等の実態には敏感であって、
営利企業との事業競合性及び他の収益事業とのバランスなどを十分考慮した機動的な対応は必要であろう。
しかしながら、公益法人等が行う多様な経済活動のすべてを把握することは事実上困難であり、
また、すべてを法律上に網羅し頻繁に 改正を行うこともかえって混乱を来すものと思われる。

頻繁な改正は歓迎されませんが、今後を見通す汎用的に対応可能なルール付けが必要となってきているのではないでしょうか。

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