1.概要

過去の研究成果としての経営学上の含蓄や、自己の経験から時勢の急激な変化に際した経営上の判断についてまとめてみました。

環境が見えない中、下す経営判断についての一助になればと考えています。

企業は、コロナウイルス感染症の流行に伴う経済事象に関して、継続性を維持し回復力を構築するために、予測的かつ積極的な意思決定を行う必要があると考えます。

また、情勢・業況を楽観的にとらえすぎない点、自己の責任と知見に基づき判断を行う点も重要であると思われます。

それは、目先の保証が期待できないことに起因しています。

さらに、緊急事態下においては、スピードと介入力が求められます。

とりわけ、今の情勢についていえば、最終消費者相手のビジネス、いわゆる「B to C」のビジネスにおいて影響が顕著にかつ早期に発生すると予想されます。 

スピードが要求される近時の意思決定は至極困難でありかつ、データや数値に依拠できない面もあることが想定されます。

しかしながら、会計的分析と経営的学問の応用が判断に資すると個人的には信じています。

 

2.脅威に対する影響度の分析

歴史上、稀にみる経済危機の訪れが叫ばれています。このような際には、根底から物事を見直す必要があると考えます。

想定外の事象に起因して企業の在り方を抜本的に見直す場合には、予測が困難な要素が多く匙を投げがちですが、既存の枠組みのツールを用いて現況と向き合うべきという論説が近時の制度運用については少なくない意見であると感じます。

例えば、オーストラリア会計基準審議会は2020年3月17日に,コロナウイルス感染の拡大から予想される財務報告とその監査に向け,重要な考慮事項や影響についてFAQを発表しました。

13頁からなるFAQには,冒頭から「すべての財務諸表作成者,および監査人はコロナウイルスの影響を考慮する必要があります」と宣言し,
これらが旅行業界や教育産業だけでなく,サプライチェーンやグローバルエコノミーにもたらす不確実性が,すべての産業にこれまで遭遇したことのないリスクをもたらすかもしれない,
結果としてすべての企業が影響を受け,それは財務諸表にインパクトを与える,と述べているとのことです。

そして企業の取締役,企業の中でコーポレート・ガバナンスに責任を持つ担当部署(Company secretaryなど),CEO,CFOは来る決算において,
財務諸表作成の初期の段階でコロナウイルスの影響をしっかりと議論し評価することが重要だと訴えています。【参考】スチュワードシップ研究会記事3月18日

本国の会計基準や監査対応においても現状では上記のような対応となっていると感じます。

企業会計基準委員会(ASBJ,小賀坂敦委員長)は4月9日に第429回本委員会を開催,新型コロナウイルスに関する議題の中で,10日に議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」を公表し、現下の状況から考えて,会計上の見積りを行う上では,「感染症の影響については企業自ら一定の仮定を置くことになり得る」「その仮定が明らかに不合理でなければ事後的な結果との間の乖離は『誤謬』にあたらない」「仮定及び見積りについて具体的に開示する必要がある」などとする考え方を示したと報じられています。【参考】第 429 回企業会計基準委員会(2020 年 4 月 9 日開催)議事概要

既存のフレームワークの中で対応する必要性について述べられていますが,

見積の仮定についての責任の所在は別として、ここから学べる点は、

すなわち、未曽有の経済危機と言って、その分析から逃避することなく、しかと現状を分析せよということです。

今回の事象は従来の学問的枠組みの中で「不確実性」の範疇に観念されてきた事象であると考えますが、

既存の仕組みを見直す時間もツールもない以上、我々は既存の歴史上の含蓄に依って、判断を重ねていくべきだとそう読めます。

この際にも先ずは分析可能な要素から取り組むことは言うまでもなく、闇雲に先々の売上減少を嘆くよりは、日ごとの売上額から将来の収益を想定する必要があります。

経営学上の用語で「クライシスマネジメント(危機管理)」というものがあります。これは、企業活動の継続や企業自体の存亡を左右する危機的状況が起きた場合の対処方法のことを指し、頻発する大規模自然災害や国際情勢の緊迫化による想定外の危機を乗り切りためには、事前のリスク想定だけでなく危機発生以後の対応が大変重要であることを表現しています。

3.リセットか継続かについて/新型コロナウイルス感染症に関する都道府県別の補助金・助成金・融資情報

分析の際の考慮事項は、「収益性」「(財務)安全性」がキーワードです。

【参考】サービスメニュー-分析について

将来事象を鑑み収益性の回復が認められる場合には現状を忍ぶ選択となり
収益性の回復が見込まれない場合には、事業の廃業も視野に含めるべきです。

当然に、企業存続が最優先として検討されるべきですが、

経済環境のパラダイムシフトが予測される今、廃業は次へのフレッシュスタートへの契機とも考えることができます。

経済用語で、「機会損失」とは、ある取引において、もっとも儲けの出る選択をしなかったために、得ることのできなかった利益、つまり「儲けそこなった利益」のことを指します。

機会損失を防ぐためには、意思決定のたびに、現行案と相反する代替案とを比較すべきです。

また、意思決定における、検討・対策の実行までのスケジュールに関しては現況の財務安全性が影響します。

財務安全性が低い場合には、資金調達やキャッシュアウトの抑制を検討します。

調達につき、国家または地方自治体や関係省庁・任意団体の特別な措置が行われる場合にはそれを検討しますが、そのアナウンスが遅い場合には、動静注視か別の代替案の検討を行います。

具体的な制度については、下記のリンクを参照ください。

各意思決定パターンを数値化する一方で、リスクの洗い出しと、その影響度などを評価して、優先順位を決めた上で対策を決定するというリスクマネジメントも必要です。

【国の制度関係】

【福岡の制度関係】

 情報を整理する中で、コロナウィルス関連の中小企業や居住者への支援制度や助成につき、県や市が取り組んでいるものについては、以下のサイトが最もわかりやすくまとまっているとかんじました。福岡県をはじめ、福岡市や北九州市などの福岡県内の市町村の補助金・助成金・融資情報情報が整理され、また、他の都道府県も一覧で閲覧することができます。

4.判断材料

ア.ノウハウ・収益力分析

上述の判断を行う上で、その材料としなければならないのは、これまでの事業から蓄積したノウハウの価値です。
ノウハウの価値が数値上目視化できることが一番ですが、困難も伴います。近年では、IOTを駆使しビックデータをもとに、ノウハウを可視化する仕組みも検討されています。
ノウハウの継続が前提であるならば、一般的には収益性の回復は社会経済の回復と相関関係を有します。

そのほか、収益力を分析する上で、注意が必要な点は、本国全体の同質的行動に注意を払う点です。他社の行動に基づいで自社の行動が正しいかを判断する傾向を「社会的証明」といいますが、経済危機であることと自社を取り巻く環境要因に因果関係があるかどうかについては懐疑的に把握する必要があります。

感染症の影響で売上が低下する明確な因果関係が存在する業種でなければ、業績の悪化が感染症による影響なのか、市況や景気の悪化に伴う収益減なのか別の要因に伴うものなのかを検討しなければなりません。

イ.人の安全(人命および健康状態)

職場における従業員の安全と健康の確保は不可欠です。経営資源の確保さえあれば、生産性は維持できるためです。


ここで企業が行うべき取り組みの1つは、遠隔地から安全に働くことを可能にする柔軟な勤務制度やその他の取り組みを開始、または強化することです。
セクターにもよりますが、チームの再編成やリソースの再配分、安全な労働環境を支える従業員の福利厚生およびポリシーの整備を検討します。
さらに、従業員が危機を乗り越えて働き続けてもらうためにも、現在の行政や管轄当局の方針に沿った対応を継続すべきです。
IT等の情報技術によって、安全な状況での労働環境を考えるわけですが、人類は歴史上、人と接触しないことを選択してきませんでした。
すなわち、人の本質には血の通う言葉に心情が動き、触れ合いの中で労働のやりがいを見出すという属性が宿っています。
この本質を一時的に阻害するか、また阻害せぬよう環境を再構築するか、検討しつつ環境を再整備する必要があると考えます。

また、リスクマネジメントにおける「ヒト」の安全に対する考え方は困難です。

人命と経済の比重についての政治経済上の議論がありますが、ミクロに目を移し、一つの企業でとらえた場合であっても、同様の議論が存在します。

ステイクホルダーアプローチによると、企業は社会的責任を果たすことで長期的な存続が可能になると言われており

従業員の健康への配慮は、人道的観点はもとより経営上・経済上の観点からも必要不可欠であると思われます。

ここで、現在の感染者数と非感染者数の割合は統計データで見る限り、感染する場合が無視できるほどに発生可能性は低いと判断できます。

しかしながら、経営資源の安全が脅かされる可能性が極めて低い場合であっても、その脅威が発生した場合に企業へもたらす影響が甚大である場合には

リスクマネジメントにおいて定性的評価の対象に含める必要があると思われます。

ウ.財務安全性

短期流動性の評価を行います。
とりわけ、短期的に資金ショートとならないような流動資産と流動負債の実質的なバランスを注視します。
企業は、キャッシュフローへの負担を予測し、適切なタイミングで介入することを可能にする、短期のキャッシュフロー・モニタリングが重要です。
また、売掛金の回収や在庫積み増しの管理を中心に、運転資本についてもこれまで以上の厳格なモニタリングが必要でしょう。
さらに、運転資本のサイクルへの負担を軽減するために、抜本的であることや積極的に介入することが重要です。
政府などの行政の支援策を積極的に取り入れることを検討することも必要です。
そのほか、営業活動の一時的な休止に伴う販売管理費の予測が重要です。
一種のストレステストとして、売上に比例する変動費を除いた固定費が将来的にどの程度発生するかを見込む必要があります。
その結果、財務的な企業の休業余力をシュミレートします。

エ.関連ステークホルダーの状況

顧客、従業員、サプライヤー、債権者、投資家、規制当局からの継続的な支援を確保するためのプラットフォームを構築する際には、
関連当事者とコミュニケーションを密接に図ることが必要となります。


特に顧客の現状の把握、ニーズの追跡は、自社の置かれた現況を見極めるうえで、重要であると思われます。

また、先日日経新聞において、日本電産会長の永守さんのインタビューでは、サプライチェーンにおけるグローバル化の限界についての質問に対し、「逆だ。もっともっと進む。自国にサプライチェーンを全部戻すのはリスクを増すだけだ。40カ国以上に工場を持ち、リスクを分散したと思っていたが、部品のサプライチェーンまで思いが完全には至っていなかった。猛省している。もう一回コロナ感染が広がったらどうするのかを考え、数年かけて作り替える」と回答されています。グローバル企業であるほど、サプライチェーンオペレーションの見直しについてのニーズが顕在化しますが、ここでは効率性のほか、部品などのより源流に近いものに係るサプライチェーンについての検討も必要です。

オ.新規モデルの開拓

企業を取り巻く環境が常に変化する中で、企業が一定のドメインに執着すると環境への不適応を起こし、経営の失敗に陥りかねません。

その一方で、環境変化に適応するバリューイノベーションを達成することにより、終息後の事業拡大が見込める可能性も秘めています。

例えば、都市型一極集中の経済圏に対する考え方がシフトする可能性があります。人々は郊外からテレワークによって勤務するというような社会となった場合には、郊外の比較的敷地の広い住宅に対するニーズが高まるでしょうし、移動手段・通信手段等様々な関連領域にニーズのシフトが発生すると予測されます。

自社の競争優位性を把握し、模倣困難なビジネスモデルを早期に構築することで、サービスの独自性が際立ち顧客への訴求力が高まるとともに、

差別化と低コスト化が可能になると思われます。

5.私見・雑記

 個人的に、現況における経営判断は平時に比べ特に難しい判断を要すると感じていますが、

特に、今ある融資制度を必要以上に積極的に利用するかどうかについては、至極慎重であるべきと今は感じます。

同業の専門家の中でも様々な意見がありますが、

あくまで喫急の資金需要がある場合は別にして、以下ような意見です。

情報を収集する限り、今時点で融資を利用できるだけ利用するという論調が多いですが、その先の展望及び社会がそう動いた場合に懸念があります。

本来、企業の資金調達には、それを原資としてより付加価値を生み出すという機能と責任があるところ、その投資先・運用先のない調達が財務バランスを膨張させ、複雑化させるという懸念です。

何度も、念を押しますが、「喫急の資金需要が迫る場合は別として」

個人的に、財務は力強くシンプルに王道に乗って整えることが、最善であるという信念です。

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