目次
1.前提・概要
先日、経営財務の記事で、「新型コロナで財表上の雇用調整助成金の重要性高まる」というものがありました。
当該記事内では、雇用調整助成金の決算書の表示が実務上どのようになされているかについて、2021年3月末日決算の上場会社(日本基準)のうち,6月30日までに提出された有価証券報告書において,「雇用調整助成金」を計上したものが区分ごとに集計され紹介されていました。
【参考】『経営財務』3526号 2021年10月11日。
その傾向として、営業外や特別損益の区分で開示されていたものは、90%を超える割合であるということです。
2.問題意識
雇用調整助成金を決算書のどこに掲記するかという表示上の問題ですが、個人的に実務上この記事は重要だと思います。その掲記箇所が重要だと考えるのは、それが経営分析にとって重要であるためです。
また、現在この雇用調整助成金の掲記箇所の問題が、銀行の与信・融資審査に影響しているのではないかという問題意識です。先日、「直近の損益計算書の営業利益がマイナスであるため、追加の融資は行わない」と指摘された法人からどうしたらよいかという相談を受けましたが、コロナ過で、休業要請が行われた業種はもちろんのこと、自発的に休業を行った企業においては、当然の帰結として売上が減少し、人件費は変わらず、雇用調整助成金収入が増加しているという実態があります。
そのような場合、上記記事のように助成金が営業外以降に表示されると、結果として、損益計算書上の「営業利益」が休業前に比して少なく表示されるということです。
3.検討・結論
そもそも雇用調整助成金とは、「新型コロナウイルス感染症の影響」により、「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合に、
従業員の雇用維持を図るために、「労使間の協定」に基づき、「雇用調整(休業)」を実施する事業主に対して、休業手当などの一部を助成するものです。(厚生労働省HP:雇用調整助成金🔗)。
本国にとどまらず、世界的なコロナ過に伴う休業要請について、それを現実に行えば必然的に損益計算書の仕組みから生じうる営業利益のマイナス(従前に比べ減少)ですが、そのことを、従前の慣行通りに形式的に「営業利益」指標で評価できるのでしょうか。
雇用維持・事業継続に配慮すれば、なおそのために企業が行う取り組みは紛れもない営業活動の一環であると思います。
個人的には、経営指標を用い、財務分析🔗や与信調査をする主体の側が、現実の世界を理解した上で従前の様に形式的に指標が利用できないことを把握し、弾力的に決算書を読む必要があると考えます。