インボイス制度に備えて改めて課税取引と免税事業者や事業者でない消費者との関係の整理

目次

1.消費税の課税取引とは

注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき判断しておりますが、一若輩者の執筆であることから個別の案件での具体的な処理については責任を負いかねます旨ご理解いただきたく存じます。制度上の取扱いに言及しておりますが、個人的な見解であり、より制度深化に資すればと考えてのものです。

さて、消費税の課税対象とは、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等および外国貨物の引取りです。 国税庁:タックスアンサーNo.6105 課税の対象🔗

のちほど述べる「課税仕入」の定義との兼ね合いから、一取引の当事者間で片方が事業者で片方が事業者でない場合の考え方についてこれから見ていこうと思います。

この課税対象の要件については、上記の各文言ごとにより精緻な説明がありますが、ここでは割愛すると致しまして、その中でも比較的身近に関係する論点である「事業者が事業として」について中心にフォーカスします。「事業として」とは、所得税法の「事業」より一般的に広い概念と解されており、対価を得て行われる資産の譲渡等を(反復継続的に)繰り返し、継続、かつ、独立して行うことをいうとされています。

この「事業」の定義は消基通1―1―1事業者と給与所得者の区分の逐条解説で解説されているように思います。

また、この場合の「事業者」とは,事業を行う個人をいうこととされていますが(消法2条1項3号,4号)、この「事業者」もまた消費税独自の概念(所得税の事業者の概念より広い)と考えていいと個人的には考えています。

なお、所得税法第204条⦅源泉徴収義務⦆においては,一定の報酬料金等の支払の際には,所得税の源泉徴収をすることとされており,そのような報酬料金等の支払を継続,反復して受ける者は,原則として事業者に該当することになります(消基通1-1-1解説)。

2.消費税の免税事業者とは

消費税の免税事業者とは、一定の条件を満たす場合に消費税を納める義務が免除されている者をいいます。

ここで言及しておきたいのは、免税とは税を免れているという言葉通りの意味を正確に理解することが大切であるという点です。換言すれば、免税事業者の行う取引に消費税が課されていないという理解は大きな誤解があるのではないかということです。

すなわち、免税事業者が行う取引は納税義務が免除されているので納税に至る消費税額はないという意味で、消費税が課される課されないとは別の話という認識が大事であるということです。

3.課税仕入とは

課税仕入れとは,事業者が,事業として資産を譲り受け,若しくは借り受け,又は役務の提供を受けることをいいます(消法2⑫)。

課税対象と課税仕入が別々に定義付けされていることに注意が必要です。

消費税の納税額の計算の仕組みとして、課税事業者が納税する消費税は課税期間中の課税売上げに係る消費税額からその課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額(仕入控除税額)を控除して計算します。

以下、国税庁:タックスアンサーNo.6455 免税事業者や消費者から仕入れたとき🔗 より引用 太字筆者加工。

課税仕入れとは、事業のために他の者から商品などの棚卸資産の仕入れのほか、機械や建物等の事業用資産の購入または賃借、原材料や事務用品の購入、運送等のサ-ビスの購入などをいい、その課税仕入れに係る相手方が課税事業者であることを要件としていません。
したがって、免税事業者や事業者ではない消費者から仕入れた場合も、仕入税額控除の対象となることから、その支払った対価の額は消費税および地方消費税込みの金額とされますので、その対価の額の110分の7.8(軽減税率の適用対象となる課税仕入れについては108分の6.24)相当額は、消費税額として仕入税額控除を行うことができます。

4.問題意識・納税義務のない者が請求する消費税・インボイス制度後の検討事項

ここで、上記の引用の中に「事業者ではない消費者から仕入れた場合」との記載がありますが、課税対象の定義及び課税仕入れの定義で見てきたように課税事業者サイドからみて課税取引であるが、消費者サイドから見て課税取引でないという取引が存在すると思われます。事業者でない消費者が売り上げた場合、消費者サイドは事業者でないため、課税対象とはならず、仕入れた課税事業者サイドは当該取引を仕入税額控除として認識するのです。

そのような取引の場合、消費税の請求をどう考えるかについては、これまで言及されてきました。請求してもよいという趣旨の内容が多いように見受けます。ただ、免税事業者が消費税等として消費税分を上乗せ請求してよいかどうかは消費税法には規定がありません。結局、上乗せ請求するかは価格の交渉の問題だったのです(参考:『令和3年2月改定 最新・消費税事例選集』田淵正信/中務裕之,清文社,2021年3月🔗

これまでは、この点の整理が、自身の反省も含めて曖昧だったように思います。

例えば不動産取引において、個人間で建物を売買する場合などに、契約書や請求書に記載する金額等が現場の不動産取引担当者レベルで正確に把握されていたかどうかについて疑問視しています。これについては、アナウンスがなされていたかどうかの問題でもあると思われますが、不動産業に関わらず、会社が担当者に渡す請求書のフォーマットが、個人相手である場合とそうでない場合などの平易な区分で消費税の課・非を判断している場合には注意が必要です。個人であっても、それが所得税にいう事業的規模に至らない場合でも消費税取引が発生する事業者もいますし、仕入税額控除するサイドでは相手が「課税事業者」「免税事業者」「消費者」かどうかは関係がないのです。仕入サイドと売上サイドがそれぞれの立場から相対する取引を眺める必要があります。

ただし、そこに理解が無い状況においてもあまり不都合は生じなかったのではないかと推察します。

納税義務のない消費税相当額の問題であったからです。

5.今後について

インボイス制度が始まるとそのような曖昧な整理に問題が生じてくると思われます。基本的に課税事業者の発行するインボイスでのみ仕入税額控除が可能となります。取引相手や取引当事者の損得や信用に影響してくる可能性があるために、取引当事者が当事者の立場から課税取引かそうでない取引かを判断する必要があります。

軽減税率Q&A(個別事例編)問111には、以下の様な記載があります。

なお、免税事業者は、取引に課される消費税がないことから、請求書等に「消費税額」等を表示して別途消費税相当額等を受け取るといったことは消費税の仕組み上、予定されていません。 

ただ、免税事業者が別途消費税相当額を受け取ることは法令で禁止されていることではないため、現実の取引においては免税事業者であっても消費税相当額を受領していました。令和5年10月以降に、免税事業者が消費税相当額を記載した書類を発行することは、法令上直接に禁止されてはいないものの、相手先にとってインボイスの要件を満たしていない書類であるためトラブルになる可能性がある点、指摘されています。

今後、具体的に留意すべき検討事項については、以下の記事掲載項目を参照ください。

令和5年11月22日追記

国税庁は令和11月13日、インボイス制度の「多く寄せられるご質問」等を公表しました。その中の、『免税事業者の交付する請求書等)問④』に、参考となる記載がありましたので、以下引用します。

なお、免税事業者が請求書等に消費税相当額を記載したとしても、それが適格請求書等と誤認されるおそれのあるものでなければ、基本的に罰則の適用対象となるものではありません。また、免税事業者であっても、仕入れの際に負担した消費税相当額を取引価格に上乗せして請求することは適正な転嫁として、何ら問題はありません。

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