個別対応方式における用途区分の判定時期についての考察

目次

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1.前提・概要

個別対応方式における用途区分の判定は、実務上折々に悩ましい問題です。

消費税基本通達に以下の様な記載があります。
消基通11―2―20より引用(下線筆者追記)

課税仕入れ等の用途区分の判定時期
個別対応方式により仕入れに係る消費税額を計算する場合において,
課税仕入れ及び保税地域から引き取った課税貨物を課税資産の譲渡等にのみ要するもの,
その他の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分する場合の当該区分は,
課税仕入れ を行った日又は課税貨物を引き取った日の状況により行うこととなるのであるが,
課税仕入れを行った日又は課税貨物を引き取った日において,当該区分が明 らかにされていない場合で,
その日の属する課税期間の末日までに,当該区分が 明らかにされたときは,
その明らかにされた区分によって法第30条第2項第1号 ⦅個別対応方式による仕入税額控除⦆の規定を適用することとして差し支えない。

そして、当該通達における逐条解説においては、以下の様に言及されています。(下線筆者追記)

この用途区分の判定について、個別の取引事例ごとに判定を行う必要があること,納付税額の多寡にも直接関係することとなるため,
税務調査の段階で見解の相違となるケースがあり,争訟に発展する事例もこれまで多く見受けられているところでもあるが,
用途区分の判定時点に関しては,
当該課税仕入れが行われた日の状況に基づいてその取引が事業者において行う将来の多様な取引のうちの
どのような取引に要するものであるのかを客観的に判断すべきとの解釈が定着している ところである。

2.問題意識

ここで、この客観的判断が実務に委ねられているために、個別具体的な案件においては、諸事情を考慮した判断が伴うことで、頭を悩ませるということであろうと思います。

例えば、課税仕入れ等を行った課税期間の末日までに,用途が決まらない課税仕入れ等については,課税売上対応分又は非課税売上対応分のいずれにも区分されませんので,共通対応分として区分することとなります。
(出典:国税庁「-平成23年6月の消費税法の一部改正関係-「95%ルール」の適用 要件の見直しを踏まえた仕入控除税額の計算方法等に関するQ&A〔Ⅰ〕【基本的な考え 方編】🔗問16」

とありますが、問題意識は、この「用途が決まらない」という箇所をどの程度の「確度」で実務上の判断を行うのかということです。

「客観的な判断」には、可能性の多寡をどの様に織り込むのでしょうか。

とりわけ、金額の大きな不動産等を取得した場合等には、この用途区分の判定が納税額に大きく影響することになります。

具体的に例を採ると、不動産賃貸業者が土地の取得を行い、その運用先を考量している間に、課税期間の末日を迎えた場合、その土地の造成や仲介手数料に係る用途区分は、課税期間の末日時点で用途未定につき、共通対応と判断されると思われます。

この運用先未定の期間に、潜在的取引先との間に土地賃貸に関する覚書が取り交わされていた場合はどうでしょうか。
その取り交わしがある状況下でも、建て貸しとしての運用先も別ルートで模索している場合はどうでしょうか。

納税者の頭の中に存在する最終的な運用形態と、課税期間の末日時点で客観的に判断される用途区分が異なる場合も想定されると思われます。

3.検討・結論

この問題意識について、コンメンタールに参考となる判旨がありましたので紹介します。

○個別対応方式による課税仕入れの用途区分については,
〈1〉仕入れた資産の譲渡等は,実際問題として,必ずしもその仕入れた日の属する課税期間中に行われるとは限らないこと,
〈2〉消費税法34条及び同法35条は,同法2条1項16号に規定する調整対象固定資産を取得した日から3年以内に課税業務用のみに供するものから非課税業務用のみに供するものに転用したとき,
あるいは,非課税業務用のみに供するものから課税業務用のみに供するものに転用したときには,
その転用した期間に応じ,控除済税額の全部又は一部をその転用した期間における仕入れに係る消費 税額から控除あるいは当該消費税額に加算する旨規定していて,
課税仕入れを行った日の属する課税期間中に用途を変更した場合であっても,これらの規定による調整計算の対象としていることを指摘することができるところ,
これら諸点に照らしても,課税仕入れの用途区分は当該課税仕入れが行われた日の状況によって判断されるべきものであることは明らかである。
(平26.10.23名古屋地判税務訴訟資料 264号12553順号)(『D1―Law.com判例体系』要旨)

当該判旨を読み、個人的には消費税法の考え方が腑に落ちたところです。なるほど、用途区分が未定であっても、用途確定時に転用の規定で調整が入るところ、課税仕入の行われた日における状況の判断は、その時の状況で行っても、ある程度のフォローがされるということでしょう。
またさらに、ここからは特に推論ですが、暫定的に共通対応仕入としている取引についての、用途確定時のフォローは、「課税売上割合が著しく変動した場合の調整」(消法33)によって通算されるという理解です。

すなわち、以上を搔い摘むと用途区分の判定で暫定的である取引は、それが調整対象固定資産に係るものである限り、消法33~35条の調整によってフォローされるので、課税仕入時の現況の判断はやはりその時のある程度の客観的な事実に基づいて行うことで足りると考えられるということです。

 

消費税は、間接税であることに端を発し、事業者の「利益」「所得」とは無関係に課税関係を整理しています。

そのため、期間対応の概念は極希薄であり、固定資産に係る課税仕入れであってもその仕入を行った課税期間において仕入税額控除の基礎とする(消法30①)ところ、課税売上割合について、控除対象仕入税額の計算に売上と仕入の対応のタイムラグを調整する規定が必要で、それが調整対象固定資産に係る概念です。

タイムラグの調整規定があることで、暫定的判断はあくまで暫定で行えるということだと思われます。

ただし、個人的な想像上の話として、各種経済取引の中にはおそらく、「非課税業務用から課税業務用への転用の調整」と「課税売上割合が著しく変動した場合の調整」の間には、税額に大きな開きのある取引も存在すると思われます。

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